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70-5

「ボクが……、負けた……」


 呆然とした面持ちのベオウルフ。

 信じられないといったようすで自分の手をまじまじと見ている。


 俺自身も驚いていた。

 魔法は魔書『オーレオール』があるからともかくとして、剣術なんてベオウルフどころかマリアにだって劣っているだろう。

 にもかかわらず、王都剣術大会優勝者のベオウルフを倒してしまった。


 まぐれか。

 ベオウルフが手加減してくれたか。

 いや、どちらも違う。


 俺は明確にベオウルフを負かした。

 決してうぬぼれではない。


「アッシュ。わたくしますます惚れてしまいましたわ」


 俺の手を握ってうっとりとしているマリア。


「やはりわたくしの夫にふさわしいですわね」

「いや、アッシュはワシの夫になるのじゃ」

「……アッシュお兄さん」


 我に返ったベオウルフが俺を呼ぶ。

 俺は彼に対してどんな言葉をかけるべきか迷っていた。

 なんか、気まずいな。


「アッシュお兄さん」


 再びベオウルフが俺を呼ぶ。


「アッシュお兄さんにお願いがあるのですが」

「お願い?」

「とても身勝手で迷惑かもしれませんが」

「言ってみてくれ」

「はい。えっと――」


 ひと呼吸置いてから、彼は思いもよらぬことを口走った。


「ボクと結婚してもらえないでしょうか」


 しん、と静寂が訪れる。

 まるで時間が止まったかのように俺もプリシラもマリアもスセリも固まっていた。

 極めて単純なお願いだ。

 しかし、俺はそれを理解するのに長い時間を要した。


「アッシュお兄さん。ボクと結婚してください」

「ちょっ、ちょっと待て!」


 俺は慌てて首を横に振る。


「アッシュお兄さんって、貴族ですよね。貴族の人って、お嫁さんを何人も持てるって聞きました。ボクは別に二番目でも三番目でも結構ですので」

「そういう問題じゃないぞ!」


 これは極めて繊細な問題だ。

 断るにしても慎重に言葉を選ばなくてはならない。

 俺は短い時間で思考を最大限に稼働させ、ベオウルフへの返答の言葉を考えた。


「俺は異性にしか恋愛感情を抱けないんだ」

「そうですか」


 平然としているベオウルフ。


「えっと、それがボクとの結婚になんの関係が?」

「だから、ベオウルフとは結婚できないんだ。同性とは」

「……?」


 俺の言っていることがよくわからないのか、ベオウルフは首をかしげる。

 もっとわかりやすく拒否すべきか。

 再び沈黙が訪れる。

 今度の沈黙は短く、スセリがそれを破った。


「アッシュ。おぬしもしや、ベオウルフを男だと思っておらんか」


 えっ!?

 どういうことだ……?


「ベオウルフは男だろ……?」

「いえ、ボクは女です」

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