70-3
ベオウルフは表情を曇らせる。
やはり、王都剣術大会に出場するのは乗り気ではないようだ。
だから俺はこう尋ねた。
「ベオウルフの師匠に無理やり参加させれているのか?」
「いえ、無理やりではありません。師匠が望んでいるのはそのとおりですが」
一拍置いてからベオウルフは続ける。
「師匠は楽しみにしているんです。自分の剣術を教え込んだボクがどれほど活躍するか。去年、優勝したときもとてもよろこんでくださいました」
「でも、ベオウルフ。自分の気持ちもちゃんと伝えたほうがいいんじゃないか?」
「自分の気持ち? ボクは別にイヤではないですよ」
そう苦笑する。
俺に負けず劣らずウソがヘタだな……。
「ボクには剣の才能があると師匠はおっしゃいました。だからボクは戦わなくてはならないんです。それが、孤児だったボクを拾ってくださった師匠への恩返しです」
どうしよう。もう一押し、ベオウルフを説得してみるか。
あるいは俺が彼に代わって師匠に話してみるか。
そこまで考えて俺は思い直した。
他人の事情に深入りするのは失礼だな。
「まあ、参加しようがしまいが別によいのじゃ。今年の優勝者は決まっておるのじゃからの」
「えっ」
「王都剣術大会の優勝者はアッシュなのじゃ」
俺もベオウルフもプリシラも仰天した。
なに考えてるんだ、スセリは。
「アッシュは『稀代の魔術師』であるワシのでしなのじゃ。常に頂点に立たねばならぬのじゃ」
スセリが妙に自信があるということは、なにか企んでいるに違いない。
「アッシュお兄さん、そんなに強いんですか?」
「いや、ぜんぜんまったく」
即座に否定する。
俺なんて一回戦を突破できるかも怪しい。
そもそも俺たちにはロッシュローブ教団をさがしだすという大切な任務がある。
「アッシュはこの前、騎士団で一番強い騎士を倒したのじゃ」
「それはすごいです」
「あれはまぐれだ。それか、エレオノーラさんが負けてくれたんだよ」
「でも、勝ったんですよね?」
「一応な」
じっと俺を見つめてくるベオウルフ。
真剣な目つき。
俺の瞳に映るものをさぐっているかのよう。
「ど、どうしたんだ?」
「……ボク」
ぐっと前のめりになって俺に急接近し、ベオウルフは真剣な口調で言った。
「ボク、アッシュお兄さんと戦いたいです」
「ええーっ!?」
プリシラが大声を出して驚いた。
俺もスセリも目をしばたたかせていた。
俺と戦いたいなんて、ベオウルフはどうしていきなりそんなことを言い出したんだ。
戦うのは好きではないと言っていたのに。
「アッシュお兄さん。ボクと戦ってください」
繰り返しせがんでくる。
俺はどう返事したらよいのかわからず戸惑っていた。