70-2
勉強は中断していったん休憩。
俺とベオウルフとプリシラはお茶とお菓子を楽しんだ。
「さすがプリシラのいれたお茶だ。おいしい」
「いえ、わたしなんてまだまだです」
けんそんしながらもプリシラはうれしそうに笑っている。
ベオウルフは黙々とビスケットをかじっている。
「おいしい」
ときおり小声でつぶやく。
気に入ってもらえたようでなによりだ。
「このビスケット、キルステンさまからいただいたんですよ」
「キルステンさんから?」
プリシラとキルステンさんにそんな接点あったのか。
と疑問に思ってすぐ思い出した。
プリシラは地図の描き方をキルステンさんから教わったのだった。
そのときのもらったのだろう。
キルステンさんはギルド長という立場上、いろいろな人との付き合いでお菓子をもらう機会が多いのだろう。
「キルステンさんって、なんだかんだでいい人だよな」
「とても親切なお方です」
階段を下りる足音がする。
部屋にスセリが入ってきた。
「なんじゃ、お茶をしておるのならワシを呼ばんか」
そう言ってスセリは俺のビスケットを当然の権利のように奪ってかじった。俺は呆れて文句を言う気にもならなかった。
ベオウルフはきょとんとしながらスセリを見ている。
その視線に気づいたらしい。
「おぬしが噂のベオウルフか」
「こんにちは。えっと――」
「ワシの名はスセリ。『稀代の魔術師』と言えばわかるじゃろう」
「わ、わかりません」
「のじゃじゃじゃっじゃっ。では、おぼえておくがよい」
ベオウルフが俺に耳打ちしてくる。
「アッシュお兄さんの妹さんですか?」
「えっと、ご先祖さまだな」
「ご、ご先祖さまですか……」
スセリも席に着くと、プリシラに紅茶とお菓子を所望した。
「スセリ。俺たちは勉強してるんだからじゃましないでくれよ」
「安心せい。お茶が終わったら退散するのじゃ」
スセリはベオウルフをじろじろと観察している。
視線が気になるらしく、ベオウルフは気まずそうに視線をそらしている。
「ふむ。一見したところ、どこにでもいる子供なのじゃ」
「ボクはどこにでもいる子供ですので」
「どこにでもいる子供は剣術大会で大人たちをしばき倒したりはしないのじゃ」
「たまたまうまくいっただけですので」
スセリはテーブルの隅に置いてあったノートを手にする。
ぱらぱらとめくり、中身を読む。
「勉強はよいぞ。知識を得ることは人間のみに許された特権なのじゃ」
「ボクの師匠も同じようなことを言ってました」
ノートをテーブルの隅に戻してからスセリはこう問いかけた。
「ベオウルフ。おぬしは今度の王都剣術大会には参加するのか?」
「そのつもりです」