表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

485/838

70-1

 ベオウルフはカバンから問題集を出し、目印をつけていたページを開く。

 そして問題文を指さす。


「この問題がわからないんです。解答例を読んでも理解できなくて」


 なるほど。たしかにこの問題は難しい。適正年齢の学生ですら苦戦しそうな問題だから、11歳の彼が解けないのも当然だ。

 正直、俺も上手に教えられるか不安だ。


「えっと、この問題はだな。まず――」


 実際にノートに数式を書きながら説明していく。

 ベオウルフは真剣な表情でノートを見つめ、ときおりうなずく。


「――と、こうなるからこの答えになるんだ」

「すごいです、アッシュお兄さん。すごく説明が上手でした」


 以前、イチゴのタルトを目にしたときの表情に彼はなっていた。

 どうやら理解してくれたらしい。


「アッシュお兄さん、学校の先生になれますよ」

「おおげさだな」

「ぜったいなったほうがいいです。アッシュお兄さん、きっと生徒たちにも好かれると思います」

「そ、そうか」


 照れくさくなった俺は彼から目をそらして頬をかいた。

 先生か。

 そういう道もあるのかもしれない。


「アッシュお兄さんは将来なにに――って、もう冒険者になってるんでしたね」

「いや、冒険者をなりわいにするほど覚悟は決まってない」

「というと、他に叶えたい夢があるんですか?」

「それは……」


 口ごもってしまう。

 俺は将来、なにになりたいのだろう。

 ランフォード家を出て旅をして結構な月日が経ったが、未だ自分の将来――目指す目的地が決まっていない。


「アッシュさまは王さまから広い領地をいただいて、そこのおっきなお屋敷に住むんですよねっ」


 紅茶とお菓子を持ってきたプリシラがそう言った。


「アッシュさま立派なお方ですから、領民の人たちもきっと慕われると思いますっ」


 プリシラはまるで自分のことかのように楽しそうに話している。


「そしてわたしはアッシュさまの――」

「お嫁さんになるの?」

「そ、それは! それはあるかもしれませんっ。てへへっ」


 くすぐったくなるほどの照れ笑いをプリシラは浮かべていた。


「そうか。アッシュお兄さんはプリシラと結婚するんだ」


 小声でそうひとりごつベオウルフ。

 あくまで独り言だったようなので、俺は肯定も否定もせず聞かなかったふりをした。


「貴族の人って、何人も奥さんを持てるんですよね」

「えっ。ああ。そうだな」

「そうですか……」


 ベオウルフはうつむいて考え込む。

 今の質問はどういう意図だったのだろう。


「おっと、それよりも、次の問題を教えてもらいたいのですが」

「その前に、冷める前に紅茶を飲まないか? お菓子もおいしいぞ」

「あ、はい。いただきます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ