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69-6

「アッシュお兄さんは王都の学校に通っているんですか?」

「いや。勉強は昔、家庭教師が教えてくれたんだ」


 王都やケルタスのような大都市で暮らす貴族は裕福層向けの学校に通っているのが大半で、そうでない貴族は家庭教師に勉強を教わっている。俺に勉強を教えてくれた家庭教師も王都の大学を卒業した優秀な人だった。

 ――と、ベオウルフに説明した。


「では、アッシュお兄さん。今度ボクに勉強を教えてください。勉強するの好きなので」

「いや、その問題集が理解できるなら教わる必要はないと思うぞ」


 ヘタすれば俺が教わる立場だろう。

 ベオウルフは「そうですか」と残念がっていた。


「ふむふむふむ」


 今度はエレオノーラさんが問題集を読みはじめた。

 ページをめくりながら、わざとらしくしきりにうなずいている。

 これ、ぜったい読んでるフリだろ……。


「わかるんですか? エレオノーラさん」

「ふむふむ……。さっぱりわからん」


 だと思った。

 プリシラが「あはは……」と苦笑いを浮かべていた。


「アッシュちゃんもベオウルフの偽者ちゃんもよくこんなの理解できるわねー」

「だから偽者じゃないですって」


 それから俺たちはベオウルフとおしゃべりを楽しんだ。

 俺たちの生活。

 ベオウルフの生活。

 それと、エレオノーラさんの生活。


 皆、まったく違った境遇で育ってきたから、どんな暮らしをしているかを話すだけでも楽しかった。特に俺とプリシラは命がけの冒険を少なからず経験してきたから、それを語るだけでベオウルフとエレオノーラさんの好奇心を刺激したようだった。


 ベオウルフの生活も聞いてて興味深かった。

 人里離れた山で師匠と二人で生活しており、日々剣の鍛錬と勉学に明け暮れている――と、ここまではこの前も聞かせてもらった。

 二人の生活はかなり質素なようだ。


 彼の師匠は鍛冶師でもあり、依頼に応じて刀剣を打つことによって生計を立てているのだと説明してくれた。

 週に何度か外出を許されているのは、山にこもりきりで俗世に疎くなってはならないという師匠のはからいらしい。


 エレオノーラさんは騎士団が住む寮で暮らしているという。

 騎士としての訓練や仕事をかなりおおざっぱに説明してくれた。

 この人、まじめに働いているのだろうか。

 説明を聞きながら内心、そう疑問に思っていた。


 壁にかけてあった時計が鳴り、夕方の到来を告げる。


「あー、やば。門限に間に合わなくなりそう。全力疾走で寮に帰らなきゃ」


 最初に立ったのはエレオノーラさん。


「じゃねー。また遊ぼうねっ」


 外は夕暮れ。

 茜色に染まった世界。


 エレオノーラさんはひらひらと手を振りながら『シア荘』を出ていった。

 のんびりとした足取りで、急いでいるようすはこれっぽっちもない。

 本当に自由な人だ。


「ボクも帰らなきゃ」

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