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「で、ホントはなにしてたの? お買い物?」
「最初はそうだったんですが、思いがけない人と会ったんです」
「思いがけない人……?」
「ベオウルフです」
ぽかんとまぬけに口を開け、目をしばたたかせるエレオノーラさん。
しばしの沈黙。
そして次の瞬間、彼女は大声を上げた。
「ベオウルフって、あのベオウルフ!?」
「はい。あのベオウルフです」
エレオノーラさんは俺とプリシラをまじまじと見る。
「ベオウルフと会ったなんて……。あんたたち、よく生きて帰れたわねー」
「別に戦ったわけじゃないですから」
「いやいやいや。絶対あいつ、人の100人や200人軽く殺してるから。そういう目だったでしょ?」
「ベオはそんな子じゃなかったですよ、レオノーラさま」
ベオウルフといっしょにカフェでお茶をしたことを話すと、エレオノーラさんは心底驚いていた。
「うーん、信じられん」
「ベオウルフ、剣の腕前を除けば、どこにでもいる素直な子供でしたよ」
「殺人鬼の世をあざむく表の顔だとか」
「ベオはいい子ですっ」
新しい友達を悪く言われ、プリシラは憤慨していた。
それでもエレオノーラさんは納得いかない面持ちだった。
ふしぎそうに首をかしげている。
「去年の剣術大会で戦ったときは、人を殺すのもためらわない冷たい意思を感じたのに。木剣で戦ったのにアタシ、マジで死ぬかと思ったもん」
その冷たい意思は、実は俺も以前に感じ取っていた。
スティールホーンを倒したときの、抜き身の剣を握っているときのベオウルフは、殺しを実行するためだけに魂を吹き込まれた人形のような感じだった。実際、スティールホーンよりも恐怖を感じた。
「エレオノーラさんもベオに会えば誤解がとけます。今度、わたしたちが紹介しますから」
「ふむ、それは興味深いね」
それから後日、約束の時刻に俺たちは再びベオウルフに会った。
「こんにちは、プリシラ、アッシュお兄さん」
ベオウルフはリュックサックを背負っていた。
今日、交換する本が入っているのだろう。
「それと、そちらの方は……?」
「去年、アタシと戦ったの忘れたの?」
「戦った……?」
どうやらベオウルフのほうはエレオノーラさんをおぼえていないらしい。
去年の王都剣術大会で戦った、騎士のエレオノーラさんだと俺が彼女を紹介した。
「す、すみません。ぜんぜんおぼえてないです」
「数えきれないほど人を斬ってきたって言いたいわけね」
「エレオノーラさまっ」
ぷんすか怒るプリシラ。
「ボク、人を斬ったことはないです」
「ホントかねえ。怪しいねえー」
「ええ……」
エレオノーラさんに疑われてベオウルフは困惑したようすだった。