69-2
「ベオウルフさまは普段、なにをして過ごされているのですか?」
「ボクは剣の修行です。あと、勉強かな」
「学校に通っているのですね!」
「いえ、師匠が教えてくれるんです。『人は知恵あるからこそ人である』とふだんから言ってますね」
「すばらしいお方なのですね。ベオウルフさまのお師匠さまは」
「そうですね。ボクの親にも等しいです」
ベオウルフの話を聞く限りでは、とても立派な師匠のようだ。
そんな人に育てられたからか、ベオウルフはこんな礼儀正しい言動なのだろう。
「あ、ところでベオウルフさま。わたしにはもっと砕けて話してくださって結構ですよ」
「そういうプリシラさんこそ、ボクに敬語は使わなくていいですよ」
「わたしはこれが普通のしゃべりかたなので」
「ボクもですよ」
一瞬の沈黙の後、二人は笑いあった。
「じゃあ、できるだけ『普通』に話すようにするよ。プリシラ」
「うんっ。わたしもそうするね、ベオ」
プリシラが敬語を使わずに話すところ、もしかすると初めて見たかもしれない。
しかも彼を『ベオ』と愛称で呼んだ。
仲の良かったセヴリーヌやミューにすら敬語をやめなかったから、本当に驚いた。
驚きと同時に、俺はほんの少しだがベオウルフにやきもちを焼いてしまった。
プリシラに新しい友達ができたのを喜ぶべきなのに。俺ってやつは……。
「お待たせいたしました」
店員が注文の品を運んできた。
テーブルに並ぶ飲み物とケーキ。
プリシラの頼んだココアの甘いかおりがただよってくる。
「きれい……」
目の前に置かれたイチゴのタルトに手を付けようとせず、ベオウルフはそれをじっと見つめている。
彼の言うとおり、タルトの上に乗ったイチゴは宝石のような光沢を放っていて美しい。
「おいしいですー」
プリシラが心底しあわせそうな声を出した。
しかし、それからすぐ「はっ」と我に返る。
「わ、わたしとしたことが! ご主人さまたるアッシュさまより先にケーキを食べてしまいました……。メイド失格です……」
「チーズケーキ、おいしそうだもんな」
「はうう……。はしたないメイドですみません……」
プリシラを待たせてはいけないと思い、俺も自分のチョコレートケーキに手をつけた。
甘くて、そしてほろ苦い大人の味だ。
コーヒーも俺好みの苦さだ。
「ベオウルフもいつまでも眺めてないで食べたらどうだ」
「あ、はい。そうします。でも、ちょっともったいないですね」
「ははっ。食べないほうがもったいないだろ?」
「はいっ」
ベオウルフがイチゴのタルトを口に入れる。
もぐもぐとそしゃくする。
彼の感想を俺とプリシラは待つ。
「甘くて……、ちょっとすっぱいです」