68-7
脇には黄色くて長細い料理と、茶色い液体の入ったコップも映っている。
スセリいわく、黄色くて細長いのはイモを油で揚げたものらしい。茶色い液体は香料と砂糖の入ったジュースとのこと。
「あっ、これなら作れそうです」
「頼むのじゃ」
「はいっ。今夜はハンバーガーにいたしますっ」
「ポテトもつけるのじゃぞ」
「承知しましたっ」
そういうわけで俺とプリシラは市場に買い物に出かけた。
「ア、アッシュさま。こうして二人並んで歩いていると、ふ、夫婦に見られてしまうかもしれませんねっ。……な、なんちゃって。なんちゃって……。てへへ」
「いや、プリシラがメイド服着てるから、それはないんじゃないか」
「むー。もう、アッシュさまっ」
ところがその途中、思いがけない人物と出会った。
「……あれは!」
「お知合いですか?」
川のように流れる人々の中に、一人たたずむ者がいた。
カフェの前でたたずんでいる、小柄な少年。
「……ベオウルフ」
「ええっ!?」
驚くプリシラ。
間違いない。ベオウルフだ。
ベオウルフはガラス窓に映るカフェの中をじっと見つめていた。
声をかけるべきか。
考えていると、プリシラが小走りにベオウルフのもとに駆け寄っていった。
「あの、ベオウルフさま」
「えっ」
振り返ったベオウルフがぽかんとする。
当然だ。初対面のプリシラに名前を呼ばれたのだから。
「えっと、どなたでしたっけ?」
「わたくし、ランフォード家のメイドのプリシラと申します。今日は主を助けていただきありがとうございます」
「主……?」
プリシラの肩越しに俺を見るベオウルフ。
それで合点がいったのだろう。彼は「そうか」とうなずいた。
「また会いましたね、お兄さん」
「どうしたんだ、ベオウルフ。カフェの前でずっと立ってたみたいだが」
「あ、いえ、これは……」
ベオウルフは言い淀み、下を向く。
顔を赤らめている。
恥じらっている……のか?
彼がはじめて感情らしい感情を見せたので俺は驚いた。
「カフェに入ってみたいんですけど、一人で入る勇気がなくて……」
俺とプリシラはぽかんとしていた。
魔物を瞬時にして倒す剣の使い手。
命を奪うことにためらいの無い少年。
そんな彼が、とてもかわいらしい理由で悩んでいるのに驚いていたのだ。
そしてその瞬間、俺の中でベオウルフという少年が、謎めいた剣士からどこにでもいる子供へと変わったのだった。
「なら、俺たちといっしょに入ってみるか?」
「いいんですか?」
「助けてくれたお礼としては安いだろうけど、お茶とケーキをおごらせてくれ」
「あっ、ありがとうございますっ」
ベオウルフの顔がぱあっと明るくなる。
そして、とてもいじらしく笑った。
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