68-3
永久の孤独。
それが、摂理の円環から外れて永久の命を得た代償。
たとえ『稀代の魔術師』であろうと、その代償はあまりにも重すぎる。
だから俺はこう言った。
「スセリやセヴリーヌにとって過ぎ去るだけの存在かもしれないが、わずかな時間だけでもさみしさをまぎらわせてあげたい。俺にそれはできないか?」
「アッシュ……」
顔を上げたスセリ。
瞳がうるんでいる。
普段とは違う、しおらしい彼女は妙に儚げで美しかった。
――のは、一瞬だけで、
「では、共にベッドに入るのじゃ」
ニヤリとした彼女はベッドをぽんぽんと叩いて俺を呼んだ。
「俺は真面目に言ってるんだぞ……」
「恥ずかしがるでない。男女がおれば交尾するのは自然の流れなのじゃ」
「交尾言うな」
しかし、危なかった。
あのしおらしいスセリに真剣に求められたら、受け入れてしまったかもしれない。
そしてなにごともなく翌朝になった。
俺とプリシラ、スセリ、マリアの四人で食卓を囲み、朝食をとる。
スセリはスプーンでビンからすくったイチゴのジャムを、これでもかというほどパンに塗りたくって食べていた。
マリアはサラダを食べていて、プリシラはガボチャのスープを飲んでいる。
「そういえばアッシュ。今朝、スセリさまといっしょに部屋から出てきたでしょう?」
マリアがやぶからぼうに指摘する。
俺はどきっとする。
別にやましいことはしていないのだが、彼女を納得させるのはおそらく難しい。
「いっしょにゲームしてたんだよ。端末で」
「違うぞ。交尾してたのじゃ」
「スセリ!」
カーンッ。
プリシラがスプーンを床に落とす。
マリアの目がつり上がる。
「アッシュ! あなたという人は!」
「ううう……。アッシュさま……」
「スセリの冗談だって二人ともわかってるだろ!?」
予想どおりの反応だったのだろう。スセリは大笑いしていた。
こんなやりとり、これで何度してきただろう……。
「わかってはいますわ。ですがアッシュ。わたくしという婚約者がいながら、他の女性と軽々しく二人きりになるのは感心しませんわ。プリシラとならかろうじて許しますけれど……」
マリアと婚約したつもりはないのだが……。
「そうですわっ」
マリアがぽんっと手を合わせる。
「アッシュ。今日はわたくしと二人で出かけませんこと?」
「あ、ああ……」
それでマリアの機嫌が直るのなら安い。
「森へ行って、冒険に使う傷薬の素材をさがしますわよ」
「わかった。プリシラとスセリはそれでいいか?」
「承知しましたっ」
「よいぞ」
今日は冒険者ギルドの仕事もないのでちょうどよかった。
朝食を終え、俺とマリアは森へと出かけたのだった。