68-2
「自分が決めたわけでもない人と結婚するのもなんか納得いかないから、おやじが見繕ってきた男たちに『アタシを倒したらお嫁さんになってあげる』って条件出したんだよねー」
で、全員退けてしまった――と。
得意げな顔をするエレオノーラ。
プリシラとマリアは苦笑いを浮かべていた。
この人を妻に迎えられる人はきっと大陸一の剣士だろうな。
……ん、ちょっと待てよ。
エレオノーラさんを倒した人が夫になるということは……。
「そういうわけだから、アッシュちゃん」
ニヤニヤとしているエレオノーラさん。
彼女は背後から俺に抱きついてきた。
「アタシを倒したご褒美に、お嫁さんになったげるっ」
「け、結構です!」
俺の首に腕を回して抱きしめてくる。
そんなまねを許すことができないのか、プリシラとマリアがイスから立ち上がった。
「エレオノーラさまっ」
「アッシュから離れてくださいましっ」
「やーだよーだ」
べーっと舌を出すエレオノーラさん。
「アッシュちゃんはアタシのものにけってーい」
「勝手に決定しないでください」
彼女の抱擁から逃れようと腕に手をやると、意外とかんたんに腕をほどいてくれた。
「冗談だって。恋愛はお互いの気持ちが大事だもん。でも――」
「でも?」
「さっきアッシュちゃんがアタシを負かしたとき、胸がキュンってなったのは本当だよ」
エレオノーラさんは目を細めて笑みを見せる。
そんな彼女に不覚にもときめいてしまった。
――と、今日はそんなことがあったのだと手紙に書いた。
ケルタスで一人暮らす不老の少女、セヴリーヌへあてた手紙だ。
彼女との文通は今も続いている。
こうして夜、寝る前に手紙を書くのがすっかり習慣になっている。
「律儀じゃのう」
俺のベッドに勝手に寝転がっているスセリがそう言う。
「端末があるのに文通する意味などないじゃろ」
「利便性の問題じゃないのさ」
「……アッシュよ」
スセリの声が急に真面目になったので、俺はイスを動かして背後の彼女と向き合う。
「わかっているとは思うが、せいぜい100年生きれば上出来のおぬしとの思い出など、無限の命を持つあやつにとって、ほんの一瞬の出来事にすぎんのじゃ。すぐに忘却の彼方へと追いやられる」
「それでも俺はセヴリーヌの友達でいたい。スセリだって『これからもセヴリーヌのそばにいてやるのじゃ』って前に言ってただろ」
「そうだったかの」
いつか離別の悲しさを味わわせてしまうとしても、今は――。
「それに、それを言うのなら、スセリにとっても俺はどうでもいい存在になるぞ」
「だからおぬしも不老不死にしてやると言っておるのじゃ。おぬしにも新たな魂の器をあてがってやる。今よりも美男子の身体を用意してやるのじゃ。のじゃじゃじゃじゃっ」
ふざけた口調でそう言ったかと思いきや――。
「もう、一人はイヤなのじゃ」
彼女は顔を伏せ、ぽつりとつぶやいた。