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67-6

 王都剣術大会までひと月。

 お祭りが近いこともあり、ただでさえ人口の多い王都は諸外国からの観光客で賑わいだしていた。

 冒険者の仕事も、港町から王都までの護衛がほとんどだった。


「てやーっ!」

「うわっ」


 俺の持っていた木剣が弾かれて天高く舞い、くるくる回転しながら地面に落ちた。


「はい、アタシの勝ちー」

「強いですね、エレオノーラさん」


 仕事が終わると俺とプリシラ、スセリ、マリアはエレオノーラさんと剣の稽古をするのが習慣になっていた。

 剣術大会に参加するのは、あくまでもロッシュローブ教団を見つけだすため。

 だから俺は勝敗にはこだわっていないのだが、彼女たちはそうでもないらしい。


「アッシュ。あなた、一番弱いのではなくて?」

「情けないヤツじゃのう」

「ア、アッシュさまっ。落ち込まないでくださいっ」


 マリアの言うとおり、五人の中で一番弱いのが俺だった。

 エレオノーラさんは騎士。マリアはルミエール家で剣術を習っていたから剣での戦いにはおぼえがあるという。プリシラは半獣ゆえ、身体能力が極めて高い。スセリは――どうせ身体能力強化の魔法をこっそり唱えているのだろう。


「アッシュちゃん! アタシと決勝で戦うんじゃなかったの!? さあ、立ちなさい!」

「そんな約束してません」


 とはいえ、一度くらいは彼女に勝ちたい。

 木剣を拾って再び、エレオノーラさんと対峙する。


「その意気よ、アッシュちゃん」

「次は勝たせてもらいます」


 呼吸を整え、精神を集中させる。

 水のしたたる洞窟の静寂を心に描く。

 凪いだ海を描く。

 精神が研ぎ澄まされると、俺は目の前の相手をにらみつけた。


 ぶつかり合う二人。

 幾度も剣を打ち合う。

 その末に先に剣を落としたのは――エレオノーラさんだった。


「アッシュさまの勝ちですっ」

「すばらしいですわ、アッシュ!」

「やりおるのじゃ」


 称賛の言葉を浴びながら、俺はその場にたたずんでいた。

 俺自身、驚いていた。

 身体能力強化の魔法は使っていない。

 正々堂々と戦って彼女に勝った。


「すごいじゃない、アッシュちゃん。騎士団サイキョーのアタシを倒すなんて」

「エレオノーラさんが油断したからですよ」

「んなわけないない。アタシは全力だったよ」


 エレオノーラさんはふしぎそうに俺をまじまじと見る。


「でも驚いたなー。アッシュちゃんの動き、急に別人みたいに変わったもの」

「そうなんですか?」

「剣さばきがぜんぜん違う人のものになってたよ。動きのクセとか気配とかね」


 そう言われてもさっぱり心当たりがない。


「おぬし、ズルしたじゃろ」

「スセリといっしょにするな」

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