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「でも、この格好だとエレオノーラさん、騎士だってバレバレじゃ」
「王国騎士団は表立って活動する。その影で動くのが冒険者ギルドだ」
「そーいうこと。それに毎年、騎士団も参加してるしね」
表と裏、両方からさぐるのか。
「少しでも異変を感じたらエレオノーラに報告しろ。いいな」
「わかりました」
「別に異常がなくてもアタシとおしゃべりしてもいいんだよ?」
「おわっ!」
背後に回ったエレオノーラさんが俺に抱きついてきた。
鼻をくすぐる髪からいいにおいがする。
顔を後ろに向けると、すぐそこにエレオノーラさんの笑顔。
俺がどぎまぎしているのをおもしろがっている。
「騎士団と出場者がろこつに接触していると怪しまれる。あくまで他人同士を装え」
「ほーい」
「わかっているのか……?」
キルステンさんは頭を押さえて首を振って呆れたしぐさをした。
「あ、あの、エレオノーラさん」
「なにかな?」
「そろそろ離してください」
「えっ!? アタシみたいな美女に抱きしめられてうれしくないの!?」
「えっと、はい」
「がーん!」
エレオノーラさんがようやく抱擁をといてくれた。
彼女はわざとらしくうなだれている。
「ううう……、アッシュちゃんにふられちゃったー」
なんか、面白い人だ。
「エレオノーラ。冗談だとしても肌を触れあうのはよしておけ。アッシュ・ランフォードには婚約者がいる」
「マジっすか!」
「しかも三人」
「三人!?」
「いえ、三人とも違いますから……」
エレオノーラさんが少し屈んで俺の顔をじろじろとのぞき込んでくる。
そこで彼女がかなりの高身長だと気づいた。
俺よりも背が高いのか。
「うーん、確かに色男だわ。嫁の二人や三人いてもおかしくない」
「エレオノーラさんも美人ですよ。結婚は――」
「してない! カレシ募集中でーすっ」
満面の笑みでそう答えた。
エレオノーラさんこそ、美人で性格も明るいのだから恋人がいてもおかしくないのに。
「王都剣術大会は王国の威信を他国に示す意味もある。それをじゃましようとロッシュローブ教団は混乱をもたらそうと画策しているだろう。決してやつらの思い通りにはさせるな」
「わかりました」
「了解っ」
ギルドを出ると、エレオノーラさんがにこりと笑った。
「エトガーちゃんはああ言ってたけど、仲良くしようね、アッシュちゃん」
「はい。協力して剣術大会を無事に終わらせましょう」
「そーいう意味で言ったわけじゃないんだけどなー。まーいいや」
エレオノーラさんはぎゅっとこぶしを握る。
「ちなみにアタシ、マジで優勝するつもりだから」
「失礼ですが、剣の腕前の自信は――」
「え? もちろんサイキョーだけど?」
あっさりと言ってのける。