66-6
そうして俺たちは再び列車に乗り、シヴ山へと――。
――向かわなかった。
「手紙は読んだ。シヴ山には別の冒険者を向かわせた」
「本当にすみません。キルステンさん」
王都に帰ってきた俺たちは今、ギルドのギルド長室にいる。
俺たちがシヴ山に向かわずに帰ってきたのを、キルステンさんはどう思っているのだろう。
失望だろうか。
感情を隠した表情からはわからない。
「構わん。お前たちの選択と行動は冒険者として間違いではない」
「ということは、『あの件』も受けてくれるんですか?」
「すでに教会には話をつけてある。ダグとミクといったか。あの兄妹は今、教会で保護されている。顔を見にいってやるといい」
「よかったですー」
緊張していたプリシラが笑顔になった。
俺たちはシヴ山へ行くのを中止し、貧困層居住区で暮らす幼い兄妹、ダグとミクを王都に連れてきたのだった。そしてキルステンさんに二人を教会で保護してもらうよう頼んだのだ。
親のいない幼い子供だけで生きていけるわけがない。
だから俺たちは二人に王都へ来るよう提案した。
そしてその提案を受け入れてくれた二人を連れて列車に乗り、王都に戻ったのだった。
「わたし、てっきり叱られると思いましたー」
「私がそんな冷酷な人間に見えたか」
「い、いえっ。そういうわけではありませんっ」
慌てて首をぶんぶん振るプリシラ。
「私は気にしていない。他人からそう見えているのは自覚している」
窓に反射した自分の顔を見るキルステンさん。
目を細めて自分とにらめっこする。
「しかし、私ももう少し愛想をよくするべきか」
と、独り言を口にした。
スセリが腹を抱えて大笑いしていた。
教会に行くと、ちょうど教会の前で孤児たちがボール遊びをしていた。
その中にダグとミクもいた。
「アッシュ兄ちゃん!」
「お兄ちゃーん!」
俺たちが来たのに気付いた二人はボール遊びをやめて俺たちのもとに駆け寄ってきた。
「よかった。他の子どもたちと仲良くなれたみたいだな」
「ああ! ありがとう。俺たちを連れてきてくれて」
「アッシュお兄ちゃん、ありがとう」
二人は笑顔で俺たちに感謝の言葉を口にした。
「おぬし、もう盗みはするでないぞ」
「しないよ」
「困ったことがありましたらシスターに相談しますのよ。それでも解決できないなら、冒険者であるわたくしたちを頼ってくださいまし」
「うんっ。マリアお姉ちゃんっ」
「おーい、ダグ! ミク! はやく戻ってこいよー」
子供たちが二人を呼んでいる。
「じゃあな、兄ちゃんたち」
ダグとミクは子供たちの輪に戻っていった。
どうやらうまくやっていけそうだ。
俺たちの選択は間違っていなかったと確信できた。