66-4
やはりポルックスの本質も人間を見下す竜だった。
ポルックスの言動にプリシラもマリアも憤りを隠せないようす。スセリすら眉間にしわを寄せている。
「ポルックス。ジオファーグさんを救う方法を教えてくれ」
「『救う』とは、どういう意味かね?」
その問いかけに俺は言葉を詰まらせる。
なりそこないの不死になったジオファーグさんを救うとはつまり――。
「あやつを死なせてやりたいのじゃ」
スセリが代弁した。
ポルックスがメガネの位置を直す。
「半端とはいえ、彼は念願の不死なる存在になったのだよ」
「あんなもの、生きておるとはいわん。死んだほうがマシなのじゃ。つべこべいわず、ジオファーグを死なせてやるのじゃ」
「ふむ……」
うつむいて考え込むポルックス。
しばしの思考の後、彼はうなずいた。
「ジオファーグくんがそれを望むのならそうしてあげよう。マーレン、『魂砕きのナイフ』を持ってきなさい」
主人に命令された機械人形はくるりと反転し、奥の部屋へと入っていった。
それから少し経って、マーレンはトレーにナイフを載せて戻ってきた。
ポルックスが俺にそのナイフを渡す。
「そのナイフは刺された者の魂を砕く力を秘めている」
これでジオファーグさんを刺せ、ということか……。
ナイフを受け取った俺たちは即座にポルックスの家を後にした。
「ポルックス。ここに迷い込む人間を不老不死の実験に使わないことを約束しろ」
帰り際、俺はそう言った。
「私が望んだのものあるが、彼らもそれを望んだのだよ」
「約束しなければ、俺たちはお前を倒さなくてはならない。人間に危害を加えるお前を、ギルドの総力を挙げて討伐する」
「……わかったよ。親愛なる人間と敵対する気はないからね」
それをポルックスが本当に守るのかはさておき、人間を実験に使わない約束をした俺たちはジオファーグさんの屋敷へと帰ってきた。
そして、生きているのか死んでいるのかもわからない彼にナイフを渡した。
ジオファーグさんはナイフをじっと見ている。
いたたまれないほど悲痛な面持ち。
「……これで、自分を刺せというのか」
「できないのならワシが代わりにやってやるのじゃ」
「いや、自分でやろう。ありがとう」
それからジオファーグさんは自分の財産の隠し場所を俺たちに教えてくれた。
そしてここから去るよう、言った。
俺たちは彼の最期を見届けぬまま屋敷を去って森を出た。
彼は自分の心臓をナイフで貫けただろうか。
あるいはまだ、死ぬのをためらっているのだろうか。
同情を感じずにはいられなかったが、それが禁忌を求めた者の末路なのだろう。
町への帰路、俺たちの言葉数は少なかった。
だが、翌日、思いもよらぬ事態が起こった。
ジオファーグさんが町に現れたのだ。