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7-3

「ふえ?」


 首をかしげるプリシラ。


 ――リボン! リボンに火が移っておるのじゃ!


 なっ!?

 そう言われてようやく気付いた。

 焚火の近くに置かれたプリシラのカバン。

 そのカバンにくくりつけられていたリボンに火が燃え移っていた。


「え……。ひゃああっ!?」


 プリシラが垂直に飛び上がる。

 急いで消さないと!


「水よ!」


 俺は魔書『オーレオール』を手にして魔法を唱え、プリシラのカバンに水をかけた。

 カバンは水浸しになり、火が消える。

 さいわいにも火はカバンの中に燃え移ることはなかった。

 しかし……。


「アッシュさまからいただいたリボンが……」


 俺のあげたリボンが焦げてしまっていた。

 あ然とするプリシラ。

 その目が徐々にうるむ。

 瞬きすると、ついに大粒の涙がこぼれ落ちた。

 そして顔をくしゃっと崩して嗚咽を上げた。

 せきを切ったように泣き出す。


「わたし……わたし……なんでこんなにドジなんでしょう……」


 何度もしゃくりあげながらそう繰り返す。

 俺が背中に手をやってなぐさめるも、気休めにもなっていないようすだった。


「リボンならまた買ってやるさ」

「そうじゃ……えぐっ……そうじゃ……そうじゃないんです……!」


 プリシラはしきりにかぶりを振っている。

 かと思いきや、いきなり立ち上がり、こう叫んだ。


「わたしはもう、アッシュさまと旅をする資格はありません!」


 そして森の中へと走っていった。

 ウソだろ!?


 ――アッシュ! 早くプリシラを追うのじゃ!


 俺は慌ててプリシラを追って森の中に入った。



 森の中は競い合うように木々が伸び、陽光を少しでも多く浴びんと枝葉を広げている。

 木々の枝葉によって空は覆われ、星明りは届かず真っ暗闇。

 空気がひどく湿っている。

 草と土のにおいがきつい。


 ――明かりの魔法を使うのじゃ。


「照らす光よ!」


 そう魔法を唱えると、頭上に小さな光球が出現した。

 光球は俺の動きを追尾し、常に頭上に浮遊して周囲を照らしてくれる。

 明かりを得た俺はプリシラをさがしに森の奥へと進んだ。


「プリシラ! どこにいるんだ!」


 プリシラに呼びかけながら森を歩く。

 俺の叫び声はむなしくも森の暗闇へと消えていき、応える声は無い。

 振り返れば赤々と燃える野営の焚火がかろうじて見える。

 これ以上奥に進むと帰り道を見失う……。


「プリシラ……。どうしてこんなことに……」


 ――慕っておる者からの贈り物を台無しにしてしまったのじゃ。取り乱すのも無理あるまい。


 プリシラが俺を慕ってくれていることくらいわかっていた。

 しかし、それは屋敷にいたころの主従関係の延長だと思っていた。


 ――おぬしが思っている以上にプリシラはおぬしを想っておるのじゃよ。


 主従関係を超えた想い……。


「プリシラ……」

「ひゃああああーっ!」


 そのときだった。プリシラの悲鳴が森にこだましたのは。

 俺は考えを巡らせていたのを止め、声のしたほうへ急いだ。


「プリシラ!」


 プリシラをようやく見つけることができた。

 彼女は湿った地面にしりもちをついて震えている。

 そんな彼女の前には一体の魔物が立ちはだかっていた。

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