66-2
「スセリさまは不老不死になってまでやりたいことがありますの?」
そうマリアが尋ねる。
不老不死になること自体が目的だと俺は思っていたが、彼女はそうは思っていないらしい。
「あるのじゃ」
スセリはうなずく。
「おぬしらには想像すらできん、大いなる野望がな」
その言葉にプリシラとマリアが驚く。
「野望!? すっ、すごいです! どんな野望なんですか? 教えてください、スセリさま」
「わたくしたちに教えてくださいまし」
「のじゃじゃじゃじゃ……。こればかりは教えられんのじゃ」
スセリと俺の目が合う。
彼女がふっとほくそ笑む。
「アッシュ。おぬしも知りたいじゃろう?」
――ワシには野望がある。凡百の徒には成しえぬ野望が。
以前、スセリはそう言った。
だが、具体的にどんな野望なのかまでは言わなかった。
「気が変わって教えてくれるのか?」
「まだ『その時』ではないのじゃ」
「スセリさま。もったいぶらないで教えてくださいな」
「『その時』が来たら教えるのじゃ。それまでせいぜい生き延びるのじゃな」
進む先に小さな光が見えた。
ついに暗闇に終焉が訪れたのだ。
かすかな光を求めんと自然と早足になる俺たち。
距離が縮むにつれ、徐々に光が大きくなる。
すがりつく闇を振り払うかのように俺たちは駆けだした。
そしてとうとう暗闇から脱出した。
そこは森の中にぽっかりとあいた広場だった。
広場は色とりどりの光にあふれ、まるで祭りのような華やかさだった。
頭上をあおぐも、森の木々がふたをしている。
光源は、木になっている木の実だった。
赤や黄や緑といったいろんな色の木の実が光を発していたのだ。
俺たちはぽかんと口を開けてその場に立ち尽くしていた。
広場の奥に家がある。
レンガでつくられた、木こりが住むような小さな小屋だ。
屋根から伸びる大きな煙突が印象的。
「まるで別世界だ……」
「きれいですね……」
小屋の扉が開いた。
そこから、いかにも知識人といった風貌の白髪の老人が現れて、こちらに歩いてきた。
「ようこそ、客人」
老人はそう俺たちをもてなした。
「あ、あなたは誰ですか……?」
意外な質問だったらしい。老人は「はて」と首をかしげた。
「ここに来るということは、私のことも当然知っていると思うのだが」
「もしやおぬし、賢竜ポルックスか?」
「なんだ、知っているのではないか」
「ええーっ!?」
プリシラがすっとんきょうな声を上げた。
彼女だけではなく、俺とマリアも目をしばたたかせていた。
竜といえば、トカゲのような巨躯にコウモリの翼を生やした怪物のはず。
ところが、俺たちの目の前にいるのはどう見ても年老いた人間だった。
「ポルックス。もしや、魂を移し替えたのか?」
「魔法で人間の姿に変身しているのだよ。研究をするのに最も適した姿が人間だからね」