65-7
俺はスセリに招かれるまま、彼女の隣に横になった。
立ったまま寝るなんてできないからな。
と心の中で言い訳して。
一つのベッドに二人で寝る。
密着する俺とスセリ。
スセリは穏やかに微笑んでいる。
「さて、するかの」
「なにをだ」
一応尋ねてみる。
「男女が同じベッドで寝るとなるとなやることは一つじゃろう。交尾じゃよ」
「交尾言うな」
彼女流の冗談を受け流して俺は彼女に背を向けて目をつむった。
案外あっさり引き下がってくれたらしい。スセリはそれ以上、その冗談を続けようとはしなかった。
静寂が訪れる。
森の木々とカーテンに阻まれて部屋にまで月明かりは届かない。
心細くなる暗闇が部屋を支配していた。
「おぬしのそばにおると、懐かしい気分になるのじゃ」
遠い過去を思い出すようにささやくスセリ。
「ワシにも家族がいた。夫、息子、孫……。ワシは悲願であった不老を成し遂げたが、家族との思い出がよみがえるたび、少しだけ後悔するのじゃ」
俺は黙ったままスセリの話を聞いていた。
彼女も俺の返事は期待していないだろうから。
「だからアッシュ。おぬしがいてよかった。おぬしはワシの唯一の家族じゃからな」
背中がくすぐったい。
スセリが指で俺の背中をなぞっている。
「ワシの封印を解いたのがおぬしでよかったのじゃ。やさしい人間でありがとう。アッシュ」
「俺もスセリと旅ができてよかった」
「そうか」
舞い戻ってきた静寂。
しばらくその静けさが続いたのでスセリのおしゃべりは終わったのかと思いきや、続きがあった。
「アッシュ。おぬしも不老にならんか」
そんな提案だった。
「寿命という、神の定めしくびきから解き放たれ、真なる自由を得るのじゃ」
神が万物に定めた束縛――寿命。
なにものも抗えぬはずのそれにスセリは真っ向から抗った。
彼女は鎖を引きちぎり、無限の平野に解き放たれた。
だが、俺は思う。
くびきを逃れた獣に安息は訪れるのだろうか。
「そんな簡単に決められないさ」
迷いの中にあり、返事を決めかねていた俺はそう答えた。
「ワシはおぬしと共に永遠の時を生きていきたいのじゃ。それはとても幸福なことだと思うのじゃ」
ぎゅっと服が握られる。
スセリはどれだけ離別を経験してきたのだろう。
彼女はきっともう、大切な人たちとの別れは嫌なのかもしれない。
別れがたき大切な者に俺は選ばれたのだ。
「ワシをおいていかないでほしいのじゃ」
振り返る。
スセリは涙ぐんでいた。
俺は黙って彼女を抱き寄せた。
黙って俺の胸の中にいるスセリ。
やがて、寝息が聞こえてくる。
俺も目を閉じ、ゆっくりと訪れる眠りに身を任せた。
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