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ジオファーグさんが言うところによると、この森のさらに深い場所に竜が住んでいるという。
竜の名はポルックス。
自身を『賢竜』と名乗っている。
そう自称するに値するほどポルックスは人間を凌駕する知性を有し、また、魔法も極めており、不死の魔法にも通じているという。
ジオファーグさんは自身の財産の半分と引き換えに、ポルックスに不死の魔法をかけてもらう取引をした。
ところがその魔法は不完全であった。
彼は肉体を失い、あまつさえ魂も安らかになれないままこの世に留まってしまったのであった。
「愚かなのじゃ」
スセリが一言、心底呆れた口調でそう言った。
「まったくそのとおりだ。竜などを信じたばかりに私は救われぬ魂となってしまった。私はていよくポルックスの実験台にされてしまったのだ。本当に愚かだよ」
ジオファーグさんは自らの行いを悔やんでいた。
プリシラとマリアはそんな彼に同情を抱いているようす。
「来訪者よ。どうかポルックスに会い、私を不完全な不死から開放してくれたまえ」
ジオファーグさんが懇願した。
「さて、アッシュよ。この自業自得な男をどうするのじゃ」
「どうするもこうするも……」
このまま見捨てるという選択をとれるほど俺は薄情ではない。
ただ、その前に、彼に尋ねたいことがあった。
「ジオファーグさん。以前にもこの頼みを他の人間にしましたね?」
「ああ。ときどきやってくるんだ。私の財産を目当てに来訪者が」
「彼らはどうなりました?」
「ポルックスに会いに行ったきり、帰ってこないよ。一人としてね」
やはりそうか……。
森に入ったまま行方不明になった人たちがどうなったか、これでわかった。
俺たちは賢竜ポルックスに会いにいかねばならない。
「キミたちを危険にさらすのは承知している。だが、私にはそうするしかないのだ。ときおり我が屋敷にやってくる来訪者だけが唯一の希望なのだ」
「欲をかいたバチが当たったのじゃ」
「ですがスセリさま。わたしはジオファーグさまを助けたいですっ」
「人助けは力ある者の責務ですわ」
「わかっておる、わかっておるのじゃ」
プリシラとマリアに詰め寄られたスセリは暑苦しげににそう言った。
「いずれにしても、俺たちはミクとダグの父親をさがしにポルックスに会いにいく必要がある」
「助けてくれるのだね!?」
「ジオファーグさんを助けられる確証はありませんが、賢竜ポルックスには会いに行きます」
「おお! 感謝するよ!」
「ちなみに、ですが――」
ジオファーグさんにミクとダグの父親を知っていないか質問した。
兄妹から聞いた父親の外見を説明したが、彼は申し訳なさそうに首を横に振った。
「そういう外見の男は確かに来たが、それがキミたちのさがしている父親かどうかまではわからない。なにぶん、中年の男としてはありふれた見た目だしね……」