65-3
「じーっ」
マリアが俺を非難するようなジト目で見ている……。
それから、
「きゃっ」
今度は彼女が俺に飛びついてきた。
プリシラに負けじとそうしたのだろう。
「あそこに白い影が! きっと幽霊ですわ。こわいですわ、アッシュ」
俺に密着して満足げな顔でそう言われても恐怖は微塵も伝わってこなかった。
マリアの豊満な胸が俺の腕に押し付けられる。
こればかりは彼女も無意識にそうしているのだろう。
理性を狂わす弾力に、俺はどぎまぎせずにはいられなかった。
「幽霊なんているわけなかろう。死んだ者はみな、土に還るだけなのじゃ」
「ですが、スセリさまは半分幽霊みたいなものですわよ」
「の、のじゃっ!?」
それから屋敷内をいろいろと調べてみたが、ジオファーグどころか使用人の一人すら見つけられなかった。
既に廃屋と化していたから、初めから期待はしていなかったが。
一階はおおかた探し終えた。
あとは二階だ。
階段を上り、二階へと上がる。
すると、そこには異様なものもがあった。
「こっ、これは……!」
食堂を改造したのであろう広間。
周囲には呪術に使うような禍々しい道具が散乱している。
広間の中央には魔法円。
その円の中に半透明の人間がうなだれてイスに座っていた。
「今度こそ幽霊ですわ!」
「客人か!」
俺たちの存在に気付いた幽霊がイスから立ち上がった。
「助けてくれたまえ!」
幽霊が助けを乞うが、自らこちらに寄ってこようとはしない
もしかして、足元の魔法円から出られないのか。
俺たちはおそるおそる幽霊のもとへと近づいた。
幽霊は年老いた男性の姿をしていた。
白髪で、口元にたくわえたヒゲも白い。
服装も立派なものを着ていることから、彼がジオファーグだと察することができた。
「私の名はジオファーグ。この屋敷の主だ。もっとも、肉体はとうに失っているがね」
ジオファーグさんが足元に目をやる。
そこには彼のなれの果てである白骨が転がっていた。
「私は不老不死の研究をする過程で死んでしまった。そして霊魂だけとなり、こうやって無意味に存在し続けているのだよ。来訪者たちよ。どうか私の魂をこの世から解放してくれたまえ」
ジオファーグさんはよどみのない口調でそう言った。
明らかに言いなれている。
これまでも俺たちような『来訪者』がこの屋敷に訪れたのだろう。
「この円からは出られないのですか?」
「うむ」
魂だけとなってこの狭い場所で永遠の時間を過ごすだなんて、発狂してもおかしくない。
「頼む。私の魂を解放してくれるのなら、私の財産をキミたちに譲ろう。ここのキミたちが来たということは、ジオファーグ家が莫大な財産を持っているのを知っているのだろう?」