65-2
魔力を持たない者だけが見つけられる道。
この先にジオファーグの屋敷があるのだろう。
嫌な予感がする。
スセリが先ほど言っていたとおり、俺たちはダグとミクの父親をさがしにきたのであって、ジオファーグの件は別問題である。
しかし、森に入って行方知れずになった者たちはこの先に進んだのだろうという予感がしていた。
「先へ進むのですか? アッシュさま」
「……行こう」
「決まりですわね」
「うむ」
皆も俺と同意見だった。
世界儀のオブジェで現れた道の先にはやはり、ジオファーグの屋敷があった。
深い森の中にたたずむ大きな屋敷。
それは豪邸とは呼びがたく、長い歳月の果てに朽ち果てる間際だった。
錆びた門扉は俺たちを容易に通してくれた。
ぼうぼうに草が生い茂る玄関を歩き、屋敷の扉の前までやってくる。
立派な扉だ。
「お、オバケが出てきそうです……」
「ひ、昼間にオバケは出ませんわよ、プリシラ。……ですわよね?」
プリシラとマリアは明らかに怖がっている。
実は俺も内心怖い。
迷いの森の先にある、打ち捨てられた屋敷を怖がらない者なんていようか。
「ランフォード家の屋敷よりでかいのう。平民のくせに生意気なのじゃ。ジオファーグとやら、相当いじわるな人間なのじゃろうな。なにせ、性根が腐っていないと金は稼げぬからの。のじゃじゃじゃじゃっ」
……いた。
「さあ、アッシュ。ノックしてくださいまし」
「どうぞ、アッシュさまっ」
プリシラとマリアに背中を押され、俺はおそるおそる玄関の扉を叩いた。
……しばらく待てど、反応はない。
「あのー! ジオファーグさん! いますかー!」
大声で呼んでみる。
それでも返事はなかった。
「お、カギはかかっておらんようじゃな」
「スセリさま!?」
スセリが勝手に玄関の扉を開けてしまった。
「人様のお屋敷に無断で入ってはいけませんわ」
「ここでつっ立っておっては日が暮れるのじゃ」
スセリが屋敷の中に入ってしまったので、俺たちも彼女に続いた。
ジオファーグの屋敷の中は、外観と同様に朽ちていた。
そこら中にクモの巣は張っているし、空気がホコリっぽい。窓は割れているし、木の壁は腐っていた。床をぶち抜いて木の根が飛び出しているところすらあった。
深い森の中に建っているせいか、放置されればあっという間に朽ちるのだろう。
「誰かおらんのかー!」
スセリが叫ぶ。
静寂。
「探索するのじゃ」
ギイギイと床を軋ませながら廊下を歩き、部屋を片っ端から調べていく。
屋敷はもぬけの殻。
だいぶ前から住む人がいなくなったのがうかがえる。
「ひゃっ」
プリシラが俺に抱きついてくる。
目の前を小動物が横切ったのだ。
素早くてよく見えなかったが、おそらくリスだろう。