65-1
「道がなくなってます!」
どういうことだ……。
道が本来ありあえない場所につながっていて、しかも通ってきた道が消えてしまうだなんて。
ためしにもう一度同じ道を進むと、やはり世界儀のオブジェがある場所にたどり着いた。
そしてそこから慎重に歩を進め、もと来た道に合流する地点の直前までやってくる。
合流地点に入った瞬間、すかさず振り返る。
すると、後ろの道が消え失せて木々が生い茂る木立に変わった。
「空間が歪んでおるのじゃ」
スセリがそう言う。
「魔法によって空間が歪められ、同じ道を延々と回るようになっておるのじゃ」
「あのオブジェのしわざですわね」
森に入った者たちがジオファーグの屋敷にたどり着けなかったのはこういうことか。
俺たちは世界儀のオブジェのある場所までまたやってきた。
今度はマリアがオブジェを触って、仕掛けがないかさがしだした。
しかし、いくら調べても仕掛けらしきものはみつからない。
「いっそ壊してしまってはどうかしら」
そんな乱暴なことを彼女は言った。
「それは本当に最後の手段にしよう。世界儀のオブジェには間違いなく仕掛けがあるんだから」
「でも、いくら調べても仕掛けは見つからないんですよね?」
「ならばあきらめるのじゃ。ワシらはダグとミクの父親をさがしにきたのであって、ジオファーグの屋敷を見つけにきたわけではないのじゃからな」
スセリの言うことはもっともだ。
だが、森をさがしても兄妹の父親はみつからなかった。
魔物や動物に食われてしまったのか。
あるいは、ジオファーグの屋敷にたどり着いたという可能性もある。この仕掛けを解いて。
「アッシュさま、質問してもよろしいでしょうか」
「どうした、プリシラ」
「この世界儀というものは、動いたりするのでしょうか」
「ああ。球体の部分が軸を中心に回転するようになっているんだ」
「回転ですか」
プリシラが球体の部分に手をやる。
しかし、このオブジェは普通の世界儀と違って回転しない。俺もマリアも試したが、びくともしなかったのだ。
――しかし、驚くべきことに、プリシラが手を動かすと世界儀は回転したのだった。
「回りました!」
世界儀の球体部分が軸を中心に一回転すると目の前の深い木立が左右に分かれ、新たな道が出現した。
「すごいぞプリシラ!」
「あわわわ……」
困惑するプリシラ。
「どうしてプリシラだけ世界儀を回せたのかしら」
「おそらく、プリシラは魔力を持っておらんからじゃ。魔力を持つ者を拒むためのオブジェだったのじゃな」
魔力を持っておらず、かつ世界儀を回転させられること見つけられた者のみがこの道を進めたというわけか。