7-2
それから街道を歩いていき、森へ入る手前辺りでちょうど日が暮れた。
ここに来るまでにほとんど誰ともすれ違わなかった。
すれ違ったのは一度きり。
護衛の冒険者を連れた三人組の商人たちで、彼らと軽く雑談をしながら商品を見せてもらった。
「アッシュさま、ありがとうございますっ」
ニコニコ笑顔のプリシラ。
彼女が肩に提げているカバンにはリボンが結ばれている。
俺が商人から買って、彼女に贈ったのだ。
「わたしの一番の宝物として、一生大切にしますっ」
「大げさだな」
プリシラが喜んでくれて俺もうれしい。
――額縁に入れて飾りかねん喜びぶりじゃの。
魔書『オーレオール』の中のスセリがそんな冗談を口にした。
「さて、そろそろ野営の準備をするか」
「わたし、木の枝を拾ってきますっ」
「遠くに行くなよ」
「はいっ」
俺とプリシラは二手に分かれ、焚火に使う木の枝を探しだした。
森の入り口付近で拾っていく。
なるべく太くて長い枝がいい。
――ほれ、そこに手ごろな枝が落ちておるぞ。
スセリがそう指示してくる。
「スセリも実体化して手伝ってくれよ」
――あいにく実体化するための魔力が不足しておるのじゃ。
ぜったいウソだな……。
スセリは『オーレオール』の中から俺に指図を続けた。
両手がふさがるほど枝を集めると、野営する場所に戻った。
プリシラはすでに戻っており、焚火の準備をしていた。
空気が通りやすいよう、枝を交差させて積み重ねていく。
そうして焚火の準備が完了する。
「いい感じにできたんじゃないか?」
「あとは火をつけるだけですねっ」
――ここからはワシの役目なのじゃ。
スセリが言う。
魔書『オーレオール』を通して俺の身体に魔力が駆け巡る。
頭の中に魔法の詠唱が浮かんでくる。
「小さき火よ」
俺が積み重ねた枝に手をかざして魔法を唱えると、そこに小さな火がついた。
火は枝を這うように広がって、またたく間に大きくなっていき、夜の闇を払拭するほどの焚火となった。
これで夜を過ごせる。
焚火は明かりになるのはもちろん、獣や魔物よけのためにも大事だ。
「ではでは、夕食にしましょうか」
俺とプリシラは隣り合って焚火の前に座る。
カバンからパンと干し肉を取り出して二人分に分ける。
どちらも村で買ってきたものだ。
「スセリは食べなくても平気なんだよな?」
――魂だけとなった今、食事は娯楽以外の意味はないのじゃ。
「えへへ。これも焼きましょうね」
プリシラが白くてふわふわの菓子――マシュマロを枝に差して焚火に近づける。
このマシュマロはノノさんがくれたものだ。
「焼けましたよ、アッシュさま」
プリシラから焼きマシュマロを受け取り、口に含む。
独特の弾力のある食感。
口の中に甘さが広がっていく。
「甘くておいしいですー」
プリシラがうっとりとした表情で頬に手を当てていた。
――……ん?
「どうかしたか、スセリ」
「スセリさまも召し上がりたいのですか?」
――違うのじゃ!
スセリが焦った口調で叫ぶ。
――プリシラ! おぬし、燃えておるぞ!




