64-7
とにかく、キルステンさんのおかげでプリシラは地図描きが上達したわけだ。
なんだかんだでいい人だな。
雑談を切り上げて再び森を進む。
分岐の無い一本道が延々と続く。
道はゆるやかに曲がっている。
魔物の気配がしないか、注意深く周囲を見つつ耳を澄ます。
そうして黙々と歩いていたそのとき、先頭を歩いていた俺は『あるもの』を見つけた。
「なんだ? あれ」
前方を指さすと、プリシラ、マリア、スセリが背後から出てきてそちらを見る。
俺が見つけた『あるもの』に近づく。
それは、石の台座に乗った球体のオブジェだった。
球体にはシーツにコーヒーをこぼしたような模様が彫られている。
「な、なんでしょうか……?」
「森の中に唐突に現れたオブジェ……。あやしいですわね」
首をかしげるプリシラとマリア。
スセリが球体に手を触れる。
「スセリさま。さわったら危ないかもしれませんよ」
「しかし、さわらんと正体がわからんのじゃ」
スセリは素手でオブジェを触りながらじっと目を凝らす。
「魔力を感じるのじゃ」
「わたくしも感じますわ」
「そうなのですか? わたしにはわかりません」
「ただの捨てられた芸術品じゃないのは確かだ」
「それはともかく、よくできた世界儀なのじゃ」
「世界儀……?」
プリシラには聞きなれない言葉らしい。
「この世界の模型だ」
俺がそう説明しても、プリシラはいまいちぴんとこないようすだった。
「俺たちの住む世界はこのオブジェのように球体なんだ」
「ええっ!?」
プリシラはびっくりして目をまんまるにする。
「で、でも、そうしたら、てっぺんに住んでいる人以外は落っこちちゃうのではないですか?」
「引力っていう力が作用して、みんなちゃんと住めるんだ」
球体の世界にどうして人が住めるのか、かいつまんで説明する。
しかし、プリシラの獣耳はしゅんと垂れていた。
「はうう……。アッシュさまが説明してくださっているのにちんぷんかんぷんです……」
「理屈なんぞわからんでよいのじゃ」
この世界儀はジオファーグの所有物なのだろうか。
なんの意味もなく森の中にオブジェを置くとは考えづらい。
しかも魔力を感じる。
これはきっとなにかの装置なのだ。
だが、どれだけ世界儀を調べてみてもその正体はわからなかった。
らちがあかなかったので、とりあえず地図にオブジェの位置を描いておき、先へ進むことにした。
ところが、そこから問題が起きた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださーいっ!」
分岐路にさしかかったところでプリシラが大声を出した。
「どうしましたの?」
「ここ、さっき通った道ですっ」
プリシラが地図を見せてくる。
「わたしたちは今、ここにいるんです」
彼女が指さした場所は、確かにさっき俺たちが通った場所だった。
先ほどのゆるやかな曲線の道の先は、最初に通った道につながっていたのだ。
だが、この道に分岐路なんてあったか……?
「……ふむ。おぬしら、後ろを向くのじゃ」
スセリに促されて後ろを振り向く。
ちょうど今通ってきた道がこつ然と消え失せており、木々が生い茂っていた。
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