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皆、目を閉じる。
俺も目を閉じ、そして魔書『オーレオール』の魔力を借りて魔法を唱えた。
「光放て!」
その瞬間、まぶたの上からも痛いくらいに感じる閃光がほとばしった。
目を閉じていてもわかる。太陽を直視したかのような強烈な光を。
「グオオオオッ!」
ルーンベアの苦しげな叫び声。
それからどしん、と大きな物体が倒れる音。
光が収まって目を開けると、閃光を浴びたルーンベアが倒れていた。
この魔物に魔法は効かない。
しかし、魔法から発する光までは防げまい。
目論見どおり、ルーンベアは閃光を目に浴びて気絶した。
「アッシュさまがルーンベアをやっつけましたっ」
「魔法が効かない魔物を魔法で倒すなんて、すごいですわ!」
「やりおるのう、アッシュよ」
「な、なんとなく思いついたのがたまたま成功しただけだから……」
彼女たちにほめられて照れくさくなった俺は頭をかいた。
さて、これで終わりではない。
最後のひと仕事が残っている。
「アッシュよ。ルーンベアにとどめをさすのじゃ」
「殺してしまうんですか?」
プリシラがそう尋ねてくる。
線路をふさいでいた牛型の魔物とは違い、ルーンベアは明確に人間に害を及ぼす凶暴な魔物。ここでトドメをささなくては、いずれまた森に迷い込んだ人間を襲うだろう。王都周辺ではルーンベア討伐の部隊が組まれるくらいだ。
「プリシラは後ろを向いててくれ」
「……いえ、わたしも見届けます。アッシュさまのメイドですから」
俺は気絶したルーンベアに近寄る。
そして太い首に手を当てて金属召喚の魔法を唱えた。
手のひらからギロチンのような刃が出現し、その勢いでルーンベアの首をはねた。
「きゃっ」
「ひゃっ」
プリシラとマリアが小さな悲鳴を上げた。
さすがに首をはねる瞬間は見られなかったらしく、目をつむって顔を背けていた。
スセリはこれっぽっちも表情を変えずに見ていたが。
胴体から分離したルーンベアの頭が地面に転がる。
これで完全に絶命した。
それからナイフを使い、ルーンベアの特徴である円形の文様が描かれた胸の毛皮をはいだ。俺は猟師ではないから毛皮をはぐのにだいぶ苦労した。
これでルーンベアを討伐した証明を手に入れた。
冒険者ギルドに持ち帰れば俺たちの評価が大きく上がる。
結構な額の報酬ももらえる。
「ルーンベアの肉は食べられませんの?」
「魔物の肉は人間には毒じゃからのう」
「これが動物のくまさんでしたらお肉も食べられるのですが……」
人間にとって忌まわしい存在であるため、魔物からとれる素材は買い手がほとんどいない。プリシラの言うとおり、こいつが動物の熊なら肉も毛皮も高値で売れるだろうが。




