64-4
逃げるべきか。
いや、すでにルーンベアとの間合いはかなり近い。
背中を向けたら確実に前足の爪の餌食になる。
「戦うのじゃな」
俺が金属召喚で剣を呼び出して構えると、皆もそれぞれの武器を手にした。
「いきますわよ!」
マリアが魔法を唱え、光の矢を放つ。
だが、光の矢はルーンベアに刺さる直前、手品にかかったかのように消滅した。
「やっぱり魔法は効きませんのね」
マリアが『やっぱり』と言ったように、ルーンベアに魔法は通じない。
胸にある光る円形の紋様が魔法を打ち消すのだ。
こいつを倒すには――果敢にふところにもぐりこまなくてはならないのだ。
とはいうものの、こいつの大木のごとき前足による攻撃をまともにくらえば、俺たち人間の身体なんて見るも無残に八つ裂きにされる。
「グオオオオオオオッ!」
ルーンベアの咆哮が空気を震わせる。
そして四つんばいになって突進してきた。
猛烈な攻撃。
俺たちはとっさに横に飛び、突進の直前上から避けた。
ドシンッ!
ルーンベアが木に激突する。
突進をくらった木はみしみしと軋みながら根元から折れて倒れた。
俺は手にした剣を投げる。
投てきした剣の先端がルーンベアの背中に刺さった。
だが、ルーンベアは痛がるそぶりもなく立ち上がる。
分厚い体毛に阻まれて皮膚まで貫けなかったか。
俺は再び武器を召喚して投げた。
柄から穂先まで金属の槍がゆるい曲線を描いて飛び、ルーンベアの胸に刺さる。
「ゴオオオオオオッ!」
痛がっているわけではなさそうだ。
ルーンベアが激昂のおたけびを上げると、胸に刺さっていた槍が落ちた。
血は一滴たりとも落ちていない。
「体毛に守られていない頭を狙うのじゃ」
スセリに指示されて再び召喚した槍を投げる。
頭部を狙って投げたものの、槍はルーンベアに命中しなかった。
狩人でもない俺に小さな部分を狙って投げるのは無理だった。
「このプリシラにおまかせを!」
ロッドを両手に握ったプリシラが駆け、ルーンベアに接近する。
ルーンベアが右前足を真横に振るう。
プリシラはすかさず立ち止まり、攻撃を回避した。
「だ、ダメです! 近づけません!」
至近距離に寄ろうものなら前足の攻撃を受けてしまう。
しかし、ルーンベアを倒すにはどうしても接近して頭を攻撃しなければならない。
魔法は効かないし、遠距離攻撃の手段もない。
どうにしかしてルーンベアの動きを封じなければ……。
動き……。動きを封じる……。
……そうか!
「みんな! 俺が合図したら目をつむってくれ!」
「目を!?」
「俺が隙をつくる」