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64-1

 ミクは目に涙を浮かべていた。

 この子たちには父親がいたのか。

 しかし「さがしてほしい」ということは、今はいないようだ。


「お父さん、森に行ったまま帰ってこないんです」

「ミク! やめろ!」


 俺たちに事情を話そうとする妹にダグがどなる。

 だが、ミクは俺たちが唯一の希望だと思っているらしく、かまわず言葉を続けた。


「森にはお金になる草やお花があるから、お父さん、お金を稼ぐために森に行ったんです」

「そして、森に行ったきり帰ってこないのですわね」

「何日くらい帰ってこないのですか?」

「一カ月……」


 それを聞いて俺たちは顔を見合わせた。

 一カ月も森から帰ってきていないとなると、ミクには残念だが状況は絶望的だ。


「だから言っただろ。父さんは森で死んだんだ」


 ダグが俺たちの表情を見て言った。

 おえつをあげて泣きだすミク。

 プリシラが頭をなでてなぐさめる。


「お父さん、死んでないもん」

「ミク。俺たちは自分たちで生きていかなくちゃならないんだ」


 そのための行動が盗みだった。

 こんな小さな子供が生きるために罪を犯さなければならないなんて、あまりに理不尽だ。


「アッシュさま……」

「アッシュ……」


 プリシラとマリアも同じ考えで、俺の決断を待っていた。

 俺はかがんでダグとミクに目線を合わせ、真剣な口調でこう言った。


「俺たちが二人のお父さんをさがしてくる」

「ほんと!?」


 ミクの顔が明るくなる。

 それに対してダグはあくまで反抗的な表情をしている。


「よけいなことするな! 父さんは死んだんだ! あきらめろよミク!」

「死んでないもん!」


 涙を服の裾で拭ってからミクは言う。


「お父さん、きっといっぱいお金を持って帰ってくるもん。だからお兄ちゃんは泥棒なんてしなくていんだよ」

「ミク……」


 妹が父の無事をかたくなに信じている理由を知り、ダグはうなだれる。

 ダグは俺のほうを向く。


「お兄さん。父さんをさがしてきてくれ」

「必ず二人のお父さんを見つけてくる」


 そう約束して俺たちは兄妹の部屋を後にした。


「さて、格好はつけたのはよいものの、列車の出発は明日じゃぞ」


 さっそくスセリに指摘されてしまった。


「明日の列車には乗らない。日を遅らせる」

「それがいいですわ」

「困っている子供を見捨てるわけにはいきませんからねっ」

「あー、やれやれなのじゃ」


 キルステンさんには叱られるだろう。

 だが、俺は自分の判断を間違ってはいないと思っている。

 ここであの兄妹を見捨てたら絶対に後悔する。


「でも、結果としてダグとミクにはつらい事実をつきつけてしまうことになりそうですわね」

「ですね……。はうう」

「せめて遺品の一つでも持って帰ってやるのじゃな」

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