63-7
「本を返してほしかったらお金を出せ」
男の子は金銭を要求してきた。
この兄妹がその日を生きるのに精いっぱいな暮らしをしているのは容易にわかった。しかも両親がいなくて子供だけで生きていくとなると、犯罪に手を染めるのもやむを得ないのだろう。
「本はぜったいに見つからない場所に隠してある。お金をくれないなら本を燃やすからな」
「こやつ……。やはり憲兵につきだすか丸焼きか……」
スセリが脅す。
しかし、俺は男の子に対しこう言った。
「お金を渡せば本を返してくれるんだな?」
「アッシュ。おぬし――」
「スセリ。俺はお金で解決するのならそれでいいと思ってる」
魔力で『オーレオール』のだいたいの位置は把握している。その気になれば力ずくで『オーレオール』を取り返せるだろう。
だが、そんなマネはしたくない。
俺はプリシラに指示し、銀貨を五枚ほど出した。
「さあ、俺は金を出した。次はキミが本を出す番だ」
「……」
「お兄ちゃん!」
ずっと男の子の後ろに隠れていた女の子が声を出した。
「ダグお兄ちゃん。やっぱり泥棒なんてダメだめだよ……」
「ミク……」
「この人たちに本、返そうよ」
「でも、お金がないと俺たち、ごはんが食べられないんだぞ」
ダグと呼ばれた男の子はミクと呼んだ女の子から目をそらしてそう言った。
そのしぐさを見て俺は少しほっとした。
やはりこの子にもあったのだ。
人として失くしてはならない良心が。
「お兄さんたち、ごめんなさい。これ、返します」
ミクはクローゼットから持ってきた魔書『オーレオール』を俺たちに渡してきた。
ダグはなにか言いたげだったが、妹をとがめようとはしなかった。
俺はミクから『オーレオールを』を受け取る。
「ありがとう」
俺がにこっと笑うと、罪悪感に押しつぶされていたミクはほっと笑った。
「まったく、アッシュ。おぬしが礼を言う筋合いはなかろう」
スセリには呆れられてしまったが、プリシラとマリアは安心した面持ちだった。
「もう盗みを働いてはいけませんわよ」
「は、はいっ」
「……」
ダグはだんまりだった。
盗みをしなければ食べるものを買うのもままならないというのは事実なのだろう。
彼はおそらくまた泥棒をする。
生きていくために。
……。
「アッシュ。帰るのじゃ」
俺の極めて甘い考えを見透かしたスセリがそう促してきた。
「ま、待ってください!」
ミクが俺の服の裾をつかみ、帰るのを引き留めてきた。
「お兄さんたちにお願いがあるんです」
「ミク! お前!」
「お父さん……。お父さんをさがしてほしいんです!」
扉のノブにかけていた手を引っ込める。
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