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63-6

 酒場を出るとすっかり夜になっていた。

 町の中心地は家屋の窓からこぼれる明かりで周囲のようすがわかったが、貧困層居住区に近づくにつれ明かりは次第になくなっていき、夜の闇が深くなっていった。


 町の端にある貧困層居住区へと到着する。

 目の前には背の高い集合住宅が等間隔に並んでいて星空を隠している。

 窓についている明かりはまばら。

 集合住宅は立てられてからだいぶ年月が経っている、あるいははじめから粗末なつくりなのか、古びた見た目をしている。廃墟と言われれば信じてしまうだろう。


 ここまで来るともう地図は必要ない。

 地図をしまった俺たちは魔書『オーレール』が放つ強い魔力を目指して歩く。


「ここだな」


 最上階である四階の一室の前にたどり着く。

 俺は入口の扉を叩く。


「泥棒相手にノックするやつがあるか」


 とスセリに言われてしまった。


「相手は子供だ。穏便に済ませたい」

「甘いのじゃ。砂糖菓子よりも甘々なのじゃ」


 ただ甘いわけではなく、旅先で暴力ざたになるのは避けたいという考えも一応はあった。

 ノックをしたが反応はない。

 寝ているのだろうか。


 もう一度ノックする。

 しばらく待っていると、扉がガチャリと音を立ててわずかに開いた。

 10歳くらいの男の子が扉の隙間から頭だけを出す。

 俺たちを不審がっている。


「だ、誰だよ」

「俺から盗んだ本を返してくれ」


 それで俺たちが誰なのか察したらしく、男の子はぎょっとした表情になって頭を引っ込ませた。

 そして扉が閉まる――のを俺が阻止した。

 つま先を扉の隙間にあからじめ挟んでおいたのだ。


「観念するのじゃ、小僧」


 スセリが勢いよく扉を開け放った。

 男の子が部屋の奥に逃げる。

 スセリが部屋の中にずかずかと上がり、俺たちはそれに続く。


 スセリは魔法を唱え、照明となる光の玉を天井に放った。

 部屋全体が明るくなる。

 小さな部屋の真ん中にいたのは二人の子供だった。


 一人は先ほどの男の子。

 そして彼にかばわれるようにして怯えている、小さな女の子。


 兄妹で住んでいるのか。

 部屋はこの一室のみらしい。

 両親の気配はない。


「二人だけで住んでいるのか?」


 俺はそんな質問を口にしてしまった。


「だ、だからなんだよ……」


 にらんでくる男の子。


「俺たちを憲兵につきだすつもりだな!」

「いんや、おぬしらを丸焼きにして食ってやるのじゃー」

「スセリ、ふざけるな」


 俺は彼から少しでも敵意をなくそうと、笑みを見せる。


「俺は本を返してもらえればそれでいい。憲兵につきだしたりはしない」

「う、ウソつくな!」


 まいったな。

 男の子は俺たちをまったく信用していない。

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