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63-5

「まあ、落ち着くのじゃ。慌てると転ぶのじゃ」

「スセリさま!? もたもたしていると泥棒に逃げれられますわよ!」


 魔書『オーレオール』を奪われたにもかかわらず、なぜかスセリは落ち着いていた。

 あれはスセリの命と言っても過言ではないものなのに。


「あの小僧、今ほどの手際の良さからして盗みに慣れておるのじゃ。となると、この町の地理も熟知しておるじゃろうから、ワシらではどうあがいても追いつけまい。日没ならなおさらなのじゃ」

「泥棒を追いかけるのは諦めますの?」

「そんなわけなかろう。まあ、とりえずは――」

「とりあえずは?」

「夕食なのじゃ」


 そんな悠長な……。

 焦りを募らせる俺たちとは裏腹に、スセリは少しも動じていない。


 彼女に促され、夕食をとるため酒場に入る。

 酒場は仕事帰りの大人たちでごった返し、賑わっていた。

 豪快に酒をあおる、筋肉隆々の肉体労働者。

 上機嫌に笑っている化粧の濃い女性。

 顔立ちの整った青年がオルガンを鳴らし、陽気な音楽を奏でている。


 地元の常連客が主な相手の店らしい。よそから来た、しかも未成年の俺たちは異質な存在で、店に入ってからずっと店員や客たちに注目されていた。


 隅の空いている席に腰を下ろす。

 飲み物と食事を注文すると、スセリはテーブルに地図を広げた。

 駅でもらった、この町の地図だ。


 スセリが地図の上に手をかざす。

 目を閉じて念じる。

 すると、地図の一点に青い光が灯った。

 それを見て俺とプリシラとマリアは合点がいって「あっ」と声を出した。


「この光は『オーレオール』の位置ですねっ」

「さよう。以前、ロッシュローブ教団に『偽オーレオール』を渡したときのように、『オーレオール』の位置を魔力で感知して泥棒を追跡しておるのじゃ」


 青い光――『オーレオール』を持った泥棒は路地裏をゆっくりと動いている。

 泥棒はうまく逃げおおせたと思っているだろうがしかし、俺たちには完全にバレているのだ。


「抜け目がないな。スセリは」

「世界を滅ぼすのもたやすい万能の道具なのじゃぞ。これくらいして当然なのじゃ」


 根城にたどり着いたのだろう。青い光は町の外周に位置する場所で止まった。


「店員よ。ここはどのような場所なのじゃ」


 飲み物を運んできた若い女性の従業員にスセリが質問する。


「そこは貧乏人が住んでる住宅地ね。古い集合住宅がいくつも並んでいるの。治安がよくないから近づかないほうがいいわよ、お嬢ちゃんたち」


 俺から『オーレオール』を盗んだのは貧困層の子供だったのか。

 どうにか生きていくために、日常的に盗みを働いているのだろう。

 無防備なよそ者の俺は格好の獲物だったわけだ。


「食事を終えたらさっそくここに向かうのじゃ。『オーレオール』を取り返すのじゃ。よいな?」

「ああ」

「かしこまりましたわ」

「承知しましたっ」

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