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7-1

「それじゃあ、さようなら。ノノさん」

「また会いにきてねー。いつでも歓迎するわ」


 ノノさんに見送られながら俺とプリシラ、そして魔書『オーレオール』の中にいるスセリは村を後にした。

 目指すはアークトゥルス地方。

 ここからずっと北を目指せば辿り着く。


「プリシラ。何度か野営することになるだろうけど、平気か?」


 地図によると、ここから先の旅路に村は無い。


「わたしはだいじょうぶですっ。メイドですからっ」


 プリシラがそううなずいた。

 どうしてメイドだからだいじょうぶなのか、よくわからないが……。


 プリシラが地図を広げる。


「アークトゥルス地方へ行くには森を抜けていかなければいけないみたいです」


 俺たちが今、歩いている場所はなだらかな丘陵に引かれた街道。

 整備された街道とは違い、森の中では魔物と出くわす可能性が相当高い。

 森の中で夜を過ごすのは危険だ。

 できれば森は昼間のうちに抜けてしまいたいな。

 地図で見る限り、朝に入って急げば夜は避けられそうだ。


 森を抜ければアークトゥルス地方。

 そこで俺たちのやることは二つ。

 一つは冒険者ギルドの依頼であるガトリングタートルの撃破。

 もう一つはスセリの新たな身体をさがすため、セヴリーヌという人物に会うこと。


「スセリ。セヴリーヌはアークトゥルスのどこに住んでいるんだ?」


 ――海岸近くに灯台があって、その近くに家を持っておる。まあ、200年前の話じゃが。


 200年も経ったとなると、もうそこには住んでいないかもしれないわけだな。


 ――そもそもセヴリーヌがまだ生きておるかもわからんのじゃがな。アヤツはワシと同じく不老の力を手に入れたが、不死身ではないからの。病気やケガでとうにくたばっていてもおかしくないのじゃ。


 人間が200年無事に生きていられるだろうか。

 200年の間に貴族たちの大小の戦争は幾度も起こっている。アークトゥルス地方の一部も戦火に呑まれたことは何度かあったはず。


「セヴリーヌさまがすでに亡くなられていたら、どうしましょう」


 ――そのときはプリシラ。おぬしの身体をいただこうかの。


「ふえっ!? わたしですか!」


 目をまんまるに見開きながらプリシラは自分を指さす。


 ――おぬしは半獣ゆえ、身体能力が通常の人間より優れておるからの。魔力は『オーレオール』で補えるから問題ない。ワシの魂を宿す器になれて光栄に思うがよい。


「ふええええ……」


 涙目になるプリシラ。


 ――冗談じゃよ。のーじゃじゃじゃっ。


 スセリがまた変な高笑いを上げた。

 今のは冗談だったが、スセリの新たな身体を手に入れる問題は難しいことになりそうだ。

 なんとしてもセヴリーヌに会わなければ。

 だが……。


「スセリ。別に肉体を手に入れなくても今のままでいいじゃないか?」


 俺が提案する。

 いっしょに冒険している限りでは、スセリが肉体を持っていなくて不便そうに見えたことはない。むしろ好きなときに『オーレオール』に出たり入ったりできて、普通の人間より便利に感じる。


 ――ほう。ではアッシュ。おぬしが代わりに『オーレオール』に入るか? そして入れ替わりでワシはおぬしの身体に入った瞬間、『オーレオール』をそのへんの草むらにポイと捨ててしまうぞ?


「なっ!?」


 ――そういうわけじゃ。ワシは不老の魂じゃが、魂を宿した『オーレオール』のそばを離れられん。しかも『オーレオール』が破られたり燃やされたりしたら魂もろとも消滅する。おぬしが思っておるより儚い存在なのじゃよ、ワシは。


 なるほど。スセリが新たな肉体に固執するのはそういうわけか。

 屋敷の地下室を厳重に封印していたのも納得だ。

 ということは、スセリの命は俺が預かっているのに等しいんだな……。

 俺がスセリの立場でも、なんとしても新たな身体を手に入れたいと思うだろう。


 ――頼りにしておるぞ。アッシュ。プリシラ。

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