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63-4

 そのうち俺も眠気に襲われ、うとうととしてしまった。

 夢と現実の世界をゆらゆらと行き来していると、ふいに目に刺激が走った。

 視界が瞬時にして真っ白になる。


 たまらず目を閉じた目を少しずつ開け、光に慣らす。

 完全に光に慣れて目を開けると、窓の外に美しい田園風景が広がっていた。

 澄み渡る青空。

 トンネルを抜けたのだ。


「プリシラ、ほら。いい眺めだぞ」

「ふえ……?」


 肩を揺すられ、寝ぼけ眼をこするプリシラ。

 意識がはっきりとすると、プリシラは窓の景色を見て「わぁ」と歓喜の声を上げた。


「牛さんですっ」


 木の柵で覆われた広い牧場に牛が群れていた。

 先ほどの魔物とは違う、白黒模様の乳牛だ。

 牛たちは皆、足元の草をはんでいる。


「かわいいですー」


 プリシラはうっとりとしていた。



 列車は走る。線路の上を。

 高く昇っていた太陽は徐々に西へと沈んでいき、やがて空は茜色に変わった。


「まもなく駅に到着いたします。お降りの準備をなさってください」


 車掌が現れて乗客たちにそう告げた。



 列車シリウス号は中規模の町の駅に停車した。

 乗客たちがぞろぞろとプラットホームに降りていく。

 俺たちも流れに乗って列車を降りた。


 ここで到着――ではない。

 シヴ山まではまだまだかかる。

 今日はここでいったん列車を降り、宿に宿泊するのだ。

 列車も夜はここで停車し、燃料の補給と整備を受けるとのこと。


「それにしても信じられませんわね」


 シリウス号をまじまじとマリアは見ている。


「こんな大きな鉄の車を蒸気で走らせるだなんて」

「蒸気って、お湯を沸かすときに出る白い湯気ですよね。そんなもので車輪が回るなんてふしぎです」

「熱と歯車は人類の普遍なる英知なのじゃ」


 駅を出て町へ。

 夕暮れどきだからか通りを歩く人はまばら。

 通りに連なる店もほとんど店じまいしている。


「のどかな町ですわね」

「牧歌的なのじゃ」


 あらかじめ冒険者ギルドが予約してくれた宿に行こう――とした、そのとき、


「おわっ」


 背後から誰かにぶつかられ、俺は前のめりによろめいた。

 上半身をそらして姿勢を保ち、どうにか転ばずに済んだ。

 だが、


「『オーレオール』が!」


 手にしていた魔書『オーレオール』がなくなっていた。

 前方を見る。

 小柄な子供が全速力で逃げている。

 脇に抱えている本は俺からひったくった『オーレオール』だ。


「どっ、どどどどど泥棒なのですっ」

「まぬけじゃのう」


 スセリは呆れた顔をしていた。

 泥棒の子供は直角に曲がり、路地裏に逃げ込んだ。


「急いで追いかけますわよ!」

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