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そのうち俺も眠気に襲われ、うとうととしてしまった。
夢と現実の世界をゆらゆらと行き来していると、ふいに目に刺激が走った。
視界が瞬時にして真っ白になる。
たまらず目を閉じた目を少しずつ開け、光に慣らす。
完全に光に慣れて目を開けると、窓の外に美しい田園風景が広がっていた。
澄み渡る青空。
トンネルを抜けたのだ。
「プリシラ、ほら。いい眺めだぞ」
「ふえ……?」
肩を揺すられ、寝ぼけ眼をこするプリシラ。
意識がはっきりとすると、プリシラは窓の景色を見て「わぁ」と歓喜の声を上げた。
「牛さんですっ」
木の柵で覆われた広い牧場に牛が群れていた。
先ほどの魔物とは違う、白黒模様の乳牛だ。
牛たちは皆、足元の草をはんでいる。
「かわいいですー」
プリシラはうっとりとしていた。
列車は走る。線路の上を。
高く昇っていた太陽は徐々に西へと沈んでいき、やがて空は茜色に変わった。
「まもなく駅に到着いたします。お降りの準備をなさってください」
車掌が現れて乗客たちにそう告げた。
列車シリウス号は中規模の町の駅に停車した。
乗客たちがぞろぞろとプラットホームに降りていく。
俺たちも流れに乗って列車を降りた。
ここで到着――ではない。
シヴ山まではまだまだかかる。
今日はここでいったん列車を降り、宿に宿泊するのだ。
列車も夜はここで停車し、燃料の補給と整備を受けるとのこと。
「それにしても信じられませんわね」
シリウス号をまじまじとマリアは見ている。
「こんな大きな鉄の車を蒸気で走らせるだなんて」
「蒸気って、お湯を沸かすときに出る白い湯気ですよね。そんなもので車輪が回るなんてふしぎです」
「熱と歯車は人類の普遍なる英知なのじゃ」
駅を出て町へ。
夕暮れどきだからか通りを歩く人はまばら。
通りに連なる店もほとんど店じまいしている。
「のどかな町ですわね」
「牧歌的なのじゃ」
あらかじめ冒険者ギルドが予約してくれた宿に行こう――とした、そのとき、
「おわっ」
背後から誰かにぶつかられ、俺は前のめりによろめいた。
上半身をそらして姿勢を保ち、どうにか転ばずに済んだ。
だが、
「『オーレオール』が!」
手にしていた魔書『オーレオール』がなくなっていた。
前方を見る。
小柄な子供が全速力で逃げている。
脇に抱えている本は俺からひったくった『オーレオール』だ。
「どっ、どどどどど泥棒なのですっ」
「まぬけじゃのう」
スセリは呆れた顔をしていた。
泥棒の子供は直角に曲がり、路地裏に逃げ込んだ。
「急いで追いかけますわよ!」