63-3
むしゃむしゃとサンドイッチを食らう牛型の魔物。
「今のうちに出発しましょう」
急いで列車に乗り込む。
そして汽笛を鳴らして列車は発車した。
急発進。
もぐもぐと口を動かす牛型の魔物を尻目に列車は加速していく。
魔物は目だけ動かして列車を見るも、別段興味を持っていないらしく、その場から一歩たりとも動かなかった。
列車は最高速度に達し、レールの上を力強く走る。
無事、魔物をどかして先へと進むことができた。
「甘いのう」
端末のゲームで遊びながらスセリが言う。
「命を奪うのにちゅうちょしては、いつか己の命を奪われる結末になるのじゃ」
「殺さないならそれに越したことはない。それだけだろ」
「やはり甘いのじゃ」
「それがアッシュさまの良いところなんですよ、スセリさま」
プリシラが俺に味方してくれた。
「アッシュさまの機転のおかげで無事に列車を走らせることができました。さすがアッシュさまです」
「見事でしたわ、アッシュ」
「プリシラとマリアのサンドイッチがおいしかったからさ」
なんて、冗談を言ってみる。
「やれやれ。慈悲も容赦もなく牛の魔物を爆裂四散させておれば、今頃あのサンドイッチはワシの胃袋の中じゃったろうに」
「お前はじゅうぶん食べただろ」
そんなふうにおしゃべりしていたそのときだった。
「きゃっ」
突如、周囲が真っ暗になったのは。
しかし、完全な暗黒は三つ数える程度の短い時間で、すぐに車内の天井に光が灯って明るくなった。
蓄光石――光を蓄える性質を持つ石だろう。
「はわわ……。外が真っ暗でなにも見えません」
「きゅ、急に夜になりましたの……?」
「トンネルに入ったのじゃよ」
列車は山を水平に貫いたトンネルの中を走っていた。
このトンネルがあるおかげで山を迂回する必要がなく、短時間で長距離を移動できるのだとスセリが説明してくれた。
「山に穴を開けるなんて、とても大変だったのでは?」
「トンネルを掘るのに5年かかったと聞いておるのじゃ。ワシの肉体が朽ち果ててからの出来事じゃから、詳しくは知らんがの」
列車はがたんごとんと揺れながら暗闇を進んでいく。
静かな時間が続く。
「退屈ですわね」
マリアがあくびする。
俺のとなりに座っているプリシラもうとうととしていた。
スセリは端末で遊んでいる。
ことん。
ついに眠りに落ちたプリシラが俺の肩に寄りかかってきた。
すーすー寝息を立てている。
やわらかい髪。
頭のてっぺんにある獣の耳。
ほのかに赤みを帯びた、やわらかそうなほっぺた。
長いまつげ。
かわいい。
俺はプリシラの寝顔を眺めて退屈な時間をまぎらわした。