63-2
「よかろう。こいつに任せるのじゃ」
と、スセリが俺の肩に手をやった。
勝手に任されることになってしまった。
こんな巨体、どうやって動かせばいいんだ。
「魔書『オーレオール』の魔力を借りれば、この魔物の頭を吹き飛ばすなど造作も無かろう」
「だめですよっ」
プリシラが反対の声を上げた。
スセリは不可解そうに眉間にしわをよせる。
「じゃまだから殺しちゃうだなんてかわいそうです」
「か、『かわいそう』じゃと……? こやつは魔物じゃぞ」
「魔物だからといって、敵意の無いものを殺めるのは間違っていますわ」
マリアがプリシラに同調してそう言った。
「おぬしらはまったく……。まこと度し難いのじゃ」
スセリは心底呆れかえったようすで肩をすくめた。
「なら、転移魔法でそのへんの原っぱに移動させるというのはどうじゃ?」
「転移魔法って、危険を伴うのではありませんか?」
「それに、無理に動かしたら怒って暴れるかもしれませんわよ」
「め、めんどくさい奴らじゃのう……」
ため息をつくスセリ。
それから俺のほうを見る。
プリシラもマリアも俺を見ている。
三人とも俺が妙案を出すのを期待しているのは明らかだった。
「……そうだな。無理に動かすがダメなら、自発的に動いてもらおう」
「それができたら苦労はせんのじゃ」
「いや、案外どうにかなるかもしれないぞ」
俺はいったん列車内に戻り、俺たちの席からあるものを持ってきた。
それはサンドイッチが入った弁当箱だった。
「食べ物で釣る気か」
「くいしんぼうそうな見た目をしているからな」
牛型の魔物の鼻がくんくんと動く。
さっそく反応した。
目の前にいる俺の持っているものが食べ物だとわかると、魔物の眠たげだった目がかっと見開かれた。
俺は弁当箱を頭上に掲げながら魔物の側面にまわる。
そして距離を取る。
「サンドイッチが欲しかったらここまでくるんだ!」
のそり。
魔物が起き上がった!
短くて太い脚で立つと、のんびりとした動作で旋回し、俺のほうを向いて歩きだした。
俺は牛型の魔物のほうを向きながら、少しずつ後退する。
魔物はサンドイッチに釣られて歩いてくる。
ずしん、ずしん、ずしん……。
地面を鳴らしながらゆっくりと。
魔物が完全に線路から出て通行のじゃまでなくなったところで俺は立ち止まった。
「約束どおり、これをあげるからな」
弁当箱からサンドイッチを一つ手に取る。
牛型の魔物が大きく口を開ける。
俺はその中にサンドイッチを放り込んだ。
1個、2個、3個……。
ありったけのサンドイッチを魔物の口の中に投げ入れていく。
サンドイッチを投げ終えると、牛型の魔物はあごを上下させてそしゃくしだした。