63-1
尋ねてみようかと思ったが、どうにも恥ずかしくて言えなかった。
――そのときだった。
「きゃっ」
「ひゃんっ」
一定の速度を保っていた列車が急に減速しだした。
姿勢を崩して俺の前に倒れこんできたマリアを抱きとめる。
隣を見ると、スセリとプリシラも抱き合う格好になっていた。
耳障りな甲高い金属音が鳴り響く。
みるみる列車は減速していく。
流れていた景色がついに止まると、不快な金属音も鳴りやんだ。
「列車が止まってしまいましたわね」
「駅に着いた……わけではなさそうです」
窓から外のようすを見る限り、なにもない平野のど真ん中だ。
列車に異常が起きたのだろうか。
「しばらく停車いたします。しばしお待ちを」
車掌が現れてそう説明すると、すぐさま隣の車両に行ってしまった。
スセリが座席を立つ。
「ゆくぞ、皆の者」
「どこに行くのですか?」
「むろん、列車が止まった原因を確かめにいくのじゃ」
「車掌に怒られますわよ」
「なにを言っておる。ワシらは冒険者。困りごとを解決するのが仕事なのじゃ」
とスセリは言っているが、単なる興味本位なのは明らかだった。
もっとも、俺も興味はあったが。
俺たちはスセリの後に続いて席を立ち、先頭車両へと向かった。
「お客さま、どうされましたか」
その途中、車掌と鉢合わせた。
「いやなに、列車が止まった原因を知りたくての。ワシらは冒険者じゃ。助けが必要なら力になって進ぜよう、なのじゃ」
「冒険者! ということは、魔物とも戦えるのですね!」
すげなく追い返されるかと思いきや、車掌は表情を明るくしてそう言った。
車掌に先頭車両まで連れてこられる。
そしてそこから外へと出た。
名もなき草花がそよそよと風に揺れる平野。
はるか遠くに集落が見える。
一本のレールが地平線の彼方まで続いている。
俺たちの助けが必要な理由はすぐにわかった。
列車の行く手を阻むように、一体の魔物がレールの上に居座っていたのだ。
大岩と見まがうばかりの巨大な魔物。
丸々と太った胴体に短い四本足。
動物にたとえるなら牛が近い。
この魔物のせいで列車は停止せざるを得なかったのだ。
「間抜けなツラをしておるのう。アッシュに似ておる」
牛型の魔物は眠たげな顔をしていて、そこには凶暴性のかけらもなかった。
ちなみに、俺にはまったく似ていない。
「牛さーん。どいてくれませんかー?」
牛型の魔物の目が動き、プリシラを捉える。
しかし魔物はぴくりとも身体を動かさない。
「どいてくださいまし」
マリアの声かけも無視。
車掌たちが力を合わせて魔物を横から押すも、びくともしない。
「冒険者さん。どうにかこの魔物をどかしてもらえないでしょうか」