62-5
一等車両と二等車両があり、俺たちが乗るのは上等なほうの一等車両。
当然、上等なだけあって運賃も高いのだが、冒険者ギルドが切符代を出してくれたのだ。
ほとんどの客は二等車両に乗ったらしく、一等車両には人がまばら。
その数少ない客たちは見るからに裕福層とわかる身なりをした人たちだ。
冒険者の俺たちは結構浮いてるだろうな。
向かい合う四人掛けの席に俺たちは座る――はずなのだが、
「なあ……。座らないのか……?」
なぜかプリシラとマリアとスセリは通路に立ったまま席に座ろうとしなかった。
「アッシュ。あなたが最初に座りなさいな」
「俺は通路側の席に座るから最後でいいよ」
「いいえ。窓際に座りなさい」
め、命令されてしまった……。
なぜだ……?
いぶかりながらも俺は窓際の席に座った。
その瞬間、
「ここはいただきなのじゃーっ」
スセリが素早い動きで俺の正面の席に座った。
「アッシュの正面はワシのものなのじゃ」
「さすがスセリさま。すばしっこいですわね……」
「ま、負けちゃいました……」
うなだれるプリシラ、マリア。
なるほど。そういうことか……。
みんな、俺の正面に座りたかったのか。
「残念じゃったのう。アッシュと見つめ合う権利を得られなくて。のじゃじゃじゃじゃっ」
スセリが目を細めて俺を見つめてくる。
ニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべる。
「楽しい旅になりそうじゃのう」
油断してうたたねでもしようものなら顔に落書きをされそうだ。
残りの席は俺の隣とスセリの隣。
「プリシラもマリアもなにをぼけっとつっ立っておる。アッシュの隣の席が空いておるのじゃぞ」
スセリが促すも、二人ともその場から動こうとしない。
ちらりと目を合わせる二人。
プリシラが苦笑いする。
「メイドは謙虚さが大事なので、アッシュさまの隣はマリアさまにお譲りします」
マリアに譲るプリシラ。
ところがマリアは強い口調でこう言い返す。
「いけませんわ。わたくし、立場を利用した卑怯なマネはしたくありませんの。プリシラだって本当はアッシュの隣に座りたいのでしょう?」
「はうう……。それは……」
「正々堂々、アッシュの隣に座るために戦いますわよ」
スセリが呆れてため息をつく。
「そんなの、アッシュに決めてもらえばよかろう。まあ、アッシュはプリシラを選ぶじゃろうがな」
スセリの言うとおり、俺はプリシラに席に座ってもらうように言おうとしていた。
「まもなく発車いたします。席にお座りください」
車掌がやってきてそう言った。
いい加減、決めなくてはいけない。
「プリシラ。アッシュの隣に座りなさいな」
今度はマリアがプリシラに譲ってきた。
「それは……婚約者の余裕ですか?」
「ふふっ。そういうことですの」
マリアの不敵な笑み。
情けをかけられて動揺するプリシラ。
プリシラはそれに対抗してこう言う。
「アッシュさまの隣にはマリアさまが座ってください!」
なんだか妙なことになった。
いつもは俺を奪い合う二人が、今回は譲り合っている。
意地を張っている二人。
今回に限っては俺の隣に座ることが敗北なのだ。