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62-2

「残念だろうが、俺はスセリにはあまり似ていないんだ」


 報酬の次は出発の日について話が移った。

 明日にでも出発してもらうとキルステンさんは言った。

 シヴ山に潜む魔物はかなり危険で、一刻も早く討伐しなければならないとのこと。


 となると、討伐の準備は今日中に済ませなければならない。

 俺たちはさっそくギルドのロビーに戻り、ギルド職員から冒険に必要な道具一式を支給してもらった。

 携帯食料や傷薬、寝袋にランタンなど。


 その後は街に出て、マリアの提案でとある場所へと赴いた。

 そこは教会。

 教会の前では五人の子供たちがボール遊びをしていた。


 この子たちは皆、孤児。

 教会では身寄りのない子供たちを預かっているのだ。

 そして子供たちの生活は市民の善意の寄付で成り立っているのだ。


 俺たちは普段の冒険の報酬でもじゅうぶん生活できている。

 使いきれないほどの金を持て余すくらいなら寄付すべき。

 それが俺やマリアの考えだった。


「あっ、マリアお姉ちゃんだ」

「アッシュ兄ちゃんもいる!」


 子供たちが俺たちに気付き、ボール遊びをやめて駆け寄ってくる。


「ごきげんよう」


 マリアがあいさつすると、子供たちも「こんにちはー!」と元気に返事をした。

 最近、俺たちはときどき教会に足を運んで子供たちと遊んでいる。マリアが神に祈りを捧げるために通ったのをきっかけにこの子たちと知り合ったのだ。


「マリアお姉ちゃん。プリシラお姉ちゃん。字を教えてほしいの」


 本を抱いた女の子二人がマリアとプリシラにねだってくる。

 マリアとプリシラは屈んで女の子に視線を合わせ、やさしい笑顔を見せる。


「ええ。いいですわよ」

「お勉強しましょうねっ」

「やったー」

「僕はアッシュ兄ちゃんたちと勇者ごっこしたい!」

「俺も!」

「僕も!」


 男の子三人は俺とスセリと遊ぶことになった。


「僕は勇者セフェウス!」

「俺は賢人フーガ!」

「アッシュ兄ちゃんとスセリは魔王ロッシュローブと魔王の手下だからね」

「なにゆえワシが悪役なのじゃ」


 不服を言うスセリだが、適役だと思う。


「というか、ワシにも『さま』をつけるのじゃ。特別に『さん』でも許すのじゃ」

「えー、なんでー?」


 『稀代の魔術師』の威厳も、子供たちには通用しないらしい。


「いつもありがとうございます。みなさん」


 年配のシスターがやってきて俺たちに礼を述べる。


「子供たちはみなさんが来るのをいつも楽しみに待っているんですよ」

「わたくしもこの子たちと遊ぶのを楽しんでますの。いつかわたくしも、こんなかわいい子供を授かりたいですわ」


 そう言ってマリアは俺に目くばせした。


「寄付もたびたびしていただいて、本当に助かっています」

「感謝するのじゃぞ」


 そして俺たちは子供たちと遊んだ。


「グハハハハ! ワシが魔王ロッシュローブじゃ。愚かな人間どもめ。貴様らのはらわたを食らいつくしてくれようぞ!」

「あはははっ。スセリ、それぜんぜん怖くなーい」

「笑っていられるのも今のうちじゃ。やがて貴様らは恐怖に打ちひしがれるのじゃー!」


 なんだかんだでスセリは乗り気で悪役を演じていた。

 日が暮れて教会を後にし、家への帰り道。


「まあ、あやつらの腹がふくれるのなら、教会に寄付するのもやぶさかではないのじゃ」


 スセリはそうつぶやいた。

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