6-7
宿屋は俺とプリシラの名前で二部屋予約していた。
スセリは『オーレオール』の中にいればいいから部屋は無し。
少しでも節約しないとな。
スセリは不服そうだったが、素直に『オーレオール』に戻ってくれた。
「今夜は同じ部屋じゃないのかい?」
恰幅のいい宿屋のおばさんがそう尋ねてくる。
プリシラの顔が赤くなる。
昨夜のプリシラの下着姿をふいに思い出した俺もおそらく同じふうになっているだろう。
――そうじゃそうじゃ。ワシに部屋を譲らんか。
「今日は別々の部屋で寝ます」
スセリの声を無視して俺とプリシラは廊下を進んだ。
「それではアッシュさま、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
そしてそれぞれあてがわれた部屋に入った。
満腹感が眠気を促す。
俺は『オーレオール』をサイドテーブルに置くと、すぐにベッドにもぐった。
「なあ、スセリ。さっきの質問の続きなんだが」
ベッドに横になりながら、『オーレオール』の中にいるスセリに話す。
「封印されし地下室のカギはお前が持っていた、ってどういうことだ? それじゃあ地下室の封印は誰にも解けなかったんじゃないか?」
――解けたじゃろう。アッシュ。おぬしが。
「それは俺がたまたま不完全な召喚術が使えたからだろ」
――不完全? なにを言っておるのじゃ。
オーレオールからスセリが出てくる。
青白い月明かりが差し込む窓を背にして。
銀色の長い髪が神秘的に輝いている。
思わず息をのむ。
その姿は、芸術品の絵画と見まがうほど幻想的で美しかった。
「おぬしの『金属召喚』もちゃんとした召喚術の一種じゃよ」
むしろ――とスセリは続ける。
「『金属召喚』こそランフォード家の源流なのじゃ」
「源流?」
「ランフォード家初代当主のワシも『金属召喚』の使い手だったのじゃ」
な、なんだって!?
俺はベッドから飛び起きる。
「おぬしが金属しか召喚できんのは断じて『出来損ない』だからではない。ワシの血を最も濃く受け継いでおるからなのじゃ」
スセリは窓から月を見上げる。
月明かりに照らされる彼女の横顔。
「ワシは自分の血を最も受け継いでいる人間に『オーレオール』を渡すため、地下室に封印を施し、外から開けられぬようカギは自分で持っていた。いつか『金属召喚』でカギを召喚できる者が現れるまで」
スセリが再び俺のほうを振り向く。
そして、慈愛のこもった微笑みを浮かべた。
「おぬしこそ、ランフォード家の正統なる後継者なのじゃ」
俺が、ランフォード家の正統な後継者……。
子供のころから『出来損ない』として兄上たちから見下され、父上に失望されてきた俺が……。
「ワシは今のランフォード家を見限っておる。貴族としての身分だけを大事に考え、召喚術や魔術の研さんを怠ったあげく、アッシュを『出来損ない』とみなしてしまったのじゃからな。それともワシがあの家で宣言するべきじゃったか? アッシュが正統なるランフォード家の次期当主である――と」
……。
「……いや」
俺はかぶりを振る。
「俺はあの家に未練はなかった。次期当主になんてなりたくなかったさ」
「そうか」
スセリの姿がふっと消え、『オーレオール』の中に帰った。
俺も再びベッドにもぐり、目を閉ざした。
プリシラやマリアの言うとおりだ。
俺は『出来損ない』なんかじゃなかった。
その事実がうれしかった。
心のどこかに残っていた、自分を見下すもう一人の自分が、消えてなくなった。
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