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プリシラはランフォード家のメイドで、スセリは我が家のご先祖さまで、マリアは幼馴染だから、キルステンさんの思っているようなのとは違うんです。
と言い訳しようと思ったが、キルステンさんはそれ以上なにも言わなかったので、俺も余計なことは言わないほうがいいかもな、と思いとどまった。
冒険者ギルドに到着する。
ギルド長室に入ると、そこにはすでにスセリとマリアがいた。
執務机の上には地図が広げられている。
大陸の地図だ。
なにかの目印なのだろう。大陸北部の山のところにボードゲームのコマが置いてある。
キルステンさんが視線を流し、俺たち全員を一度見てから口を開く。
「単刀直入に言おう。お前たちにはこの『シヴ山』に向かい、魔物を討伐してもらう」
コマを指さしてそう命じた。
大陸北部に位置するこのシヴ山に、近頃凶悪な魔物が住み着いたのだという。
魔物はシヴ山を住み家とするや付近の町や村を襲い、人々をさらって食らいだした。
事態を重く見た冒険者ギルドは魔物討伐のため、手練れの冒険者をシヴ山に送り込んだ。
しかし、送り込まれた冒険者は一人として帰ってこなかった。
「そこでわたくしたちの出番となったわけですわね」
「ワシらに助力を乞うとはわかっておるではないか」
「お前たちは四魔を二体も倒した腕利きの冒険者だ。この仕事に適任だと思っている」
「おまかせくださいっ」
プリシラが自信満々に胸をぽんっと叩いた。
それから俺のほうを見る。
「ですよねっ、アッシュさまっ」
「ああ。俺たちで魔物を討伐しよう」
「いい返事だ。期待している」
スセリもマリアもやる気に満ちた面持ち。
そういうわけで、俺たちは魔物を討伐すべくシヴ山へと赴くことになった。
「ちなみにじゃが、報酬はいくらなのじゃ?」
「報酬は――」
キルステンさんが提示した報酬の金額を聞いて俺たちは驚いた。
ベズエル討伐の報酬とはさすがに比べ物にならないが、それでもかなりの額だ。
季節がひとつ変わるまで遊んでいても余るほど。
「おぬし、顔に似合わず太っ腹じゃのう」
「ケチになる部分ではないからな。私は適正な額だと思っている」
「では、ちょちょいと魔物をやっつけて、大金をいただくのじゃ。楽な仕事じゃのう」
「いや、ダメだ」
俺がそう言うとスセリがずっこけた。
「報酬のせめて半分は教会に寄付しよう」
「なにをお行儀の良いことをほざいておるのじゃ」
「さすがアッシュさまですっ」
「わたくしもアッシュに賛成ですわ」
「お前たちにやる金だ。どう使おうと私はどうこう言わん」
俺を含めて賛成が三人。
反対は一人。
多数決で俺の勝ちだ。
「おぬしには欲というものがないのか。それでもワシの子孫か」