61-5
そして家に帰ってくる。
「楽しめたようじゃの。久しぶりのデートは」
リビングのソファに寝そべりながら端末をいじっていたスセリがそう茶化してきた。
プリシラは笑顔で「はいっ」と答える。
それから一転して不満げな表情になり、ぷんすかしながらこう続ける。
「ですが、聞いてくださいスセリさま。アッシュさまってばひどいんですよ。わたしたちがさみしがっていたのをぜんぜん知らなかったんです」
「それはいかんのう。のじゃじゃじゃじゃっ」
そしてスセリは俺を指さす。
「アッシュよ。おぬし、プリシラに見限られたら人としておしまいじゃぞ」
「うぐっ……」
確かに、このけなげで一途な少女に嫌われたら、俺は間違いなく立ち直れない。
「まあ、新しい女に入れ込む気持ちはわからなくはないがの」
非は全面的に俺にあったので「フレデリカはそんなんじゃない」と言い返したくても言い返せなかった。
「おっ、そうじゃ」
なにか思いついたのか、スセリがこう提案する。
「プリシラを長い間ないがしろにしていた埋め合わせとして、アッシュがひざ枕をするというのはどうじゃ」
ひざ枕でこれまでの埋め合わせができるのなら、ぜひそうしたい。
ところがプリシラはあまり良い顔をしていない。
ひざ枕だけでは足りないのだろうか。
と思いきや、違った。
「アッシュさまがひざ枕をするより、わたしがアッシュさまにひざ枕をしたいです」
上目づかいで俺を見つめてくるプリシラ。
物欲しげな目をしている。
そのときだった。家のノッカーが鳴ったのは。
客人だ。
誰かは俺にはわかった。
「アッシュさん!」
予想通り、客人はフレデリカだった。
今日はフレデリカの学校の試験結果が返ってくる日だった。
彼女は結果報告をしに来てくれたのだ。
結果はどうだったのかは彼女のうれしそうな表情と声でわかった。
ここまで走ってきたのだろう。肩で息をしている。
呼吸が落ち着くと、彼女は丸めて持っていた試験の用紙を俺たちに見せた。
「じゃーん」
試験の解答用紙。
その右上には『51』という数字が書かれていた。
「すごいです! フレデリカさまっ」
歓喜の声を上げてからプリシラは俺に尋ねる。
「すごい、のですよね? アッシュさま。わたし、学校には行ったのことがないのでこの数字が本当にすごいのか実はよくわからないのですが」
「えっと……」
困った。
なんと言うべきか俺は迷っていた。
この試験、たぶん満点は100点だよな……。
そこにスセリが呆れた口調でこう口をはさんでくる。
「あれだけ勉強したのにおぬし、100点満点中たったの51点しか取れんかったのか」
「『しか』じゃなくて『も』ですよー。51点なんて私史上最高点数なんですからー。半分わかったってすごくないですかー?」