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61-2

「それじゃあ今日はもう帰るよ。勉強おつかれさま、フレデリカ」

「せっかくだからウチでごはん食べていってくださいよー」


 フレデリカが上目づかいでお願いしてくる。


「悪いな。プリシラが俺の帰りを待ってるんだ」


 俺がそう答えると彼女はジト目になる。


「へー、私よりプリシラを選ぶんですねー。へえー」

「そういうつもりじゃないんだが……」

「冗談ですよー」


 べー、と彼女は舌を出して笑った。

 本当にこの子は小悪魔だな……。


「でもー、次はウチで食べてってくださいねー」

「ああ。今度はあらかじめプリシラたちに言っておくよ」

「約束ですからねー」


 フレデリカの家の玄関先。

 仰げば満天の星。

 そのなかでひときわ大きなまんまるの月。

 少し肌寒い。


「アッシュくん、本当にありがとうね」

「出来の悪い娘でごめんよ」


 フレデリカに加え彼女の両親までもが俺を帰りを見送ってくれていた。

 この時間は宿屋は他の従業員に任せ、家族の団らんをすることになっているという。

 なんてステキな家族だ。


「ちょっとパパー。私ー、出来のいい娘なんですけどー」


 むすっとするフレデリカ。


「出来のいい娘は試験で赤点取らないわよ」


 母親にそう言われてしまい、彼女はぐうの音も出ないようすだった。


「それでアッシュくん。家庭教師代についてだけど――」

「いえ、お金はいりません」

「そういうわけにはいかないよ。対価が発生してはじめて取引に価値が生まれるのだから」


 経営者らしい価値観だ。

 そういうわけで、俺はフレデリカの父親から家庭教師代を受け取った。


「どれどれー。わっ、私のおこづかいより多いんですけどー」

「大事に使わせてもらいます」

「ああ。娘のこと、どうかよろしく頼むよ」


 対価を受け取ったからには責任を果たさなくてはならない。


「アッシュさーん。今度カフェでケーキおごってくださいねー」


 ……果たせるだろうか。



「おかえりなさいませ、アッシュさま」


 家に帰るとプリシラが出迎えてくれた。


「お夕食、すぐにつくりますね」

「すまない。待たせてしまって」

「そうなのじゃ。もうおなかペコペコなのじゃ」

「フレデリカはどうでしたの? 真面目に勉強してましたの?」


 スセリとマリアも現れた。


「いっしょうけんめい勉強してたよ」

「あら、意外ですわね」


 同感だった。

 彼女のことだから、すぐにねを上げて勉強をほっぽりだして、外に遊びにいこうとせがまれるとばかり思っていた。


「さあさあプリシラ。愛しのご主人さまが帰ってきたのじゃからはよう夕食をつくるのじゃ」


 スセリの話によると、プリシラは俺が帰ってくるまでかたくなに夕食をつくろうとしなかったという。おかげでスセリとマリアはずっとおあずけをくらっていたのであった。

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