60-7
「してない」
「してくださいよー。私、こんなにかわいいんですからー」
本人は冗談で言っているのだろうが、フレデリカはかわいいと思う。
小動物っぽいプリシラの『かわいい』とは異なる、今どきの都会の女子っぽいかわいさだ。髪型も服もアクセサリーもあか抜けているし、彼女に好意を寄せる男子が学校にいても不思議ではない。
目のやり場に困るほどスカートが短いのはさすがにどうにかしてもらいたいが……。
「私ー、かわいいですよねー?」
「……普通だ」
「あははっ。アッシュさんてば、赤くなってるー」
からかわれてしまった。
翌日、さっそくフレデリカの家庭教師をすることになった。
彼女の部屋に招かれ、扉の前に立つ。
女の子の部屋に入るのだと意識すると、少し緊張する。
「乙女の部屋に足を踏み入れるなんて、アッシュさんも罪深いですねー」
フレデリカは自室の扉を開けた。
彼女の部屋は――散らかっていた。
服はそのへんに脱ぎ捨ててあるし、机には開きっぱなしの本がほったらかしにしてある。ベッドのシーツはしわだらけ。窓辺の鉢に植えられた花は哀れにしなだれている。
セヴリーヌの家に比べればマシだが、あの惨状と比較しなければならない時点でダメだろう。
……フレデリカ。罪深いのはだらしのないお前のほうだ。
「私の部屋、どうですー?」
得意げな顔をするフレデリカ。
俺の表情はおそらく、彼女が望むものとは真逆になっているだろう。
「……とりあえず、勉強の前に片付けだな」
「えー」
そういうわけで、まずは部屋の片付けをすることにした。
部屋を片付けている間、フレデリカは「どうしてこんなことにー」とロコツに面倒くさそうにため息をついていた。
服をクローゼットにしまい、本は本棚に。
帰るべき者たちを帰るべき場所に帰した後は、ベッドのシーツを替え、そして花に水をあげる。ついでにホウキとモップを持ってきて足元を掃除した。
その甲斐あり、部屋はすっかりきれいになった。
フレデリカは「おー」と目を見開いて驚いていた。
「こんなにきれいになったのなら、勉強も――」
「はかどりそうだろ?」
「いえー、それはまた別問題ですのでー」
がくっと俺は肩を落とした。
そうして見違えた部屋で俺はフレデリカに勉強を教えた。
教科は数学。
彼女は初歩学力が身についていないようだったので、教科書の最初からていねいに段階を踏んで教えていこう。
「数学はとにかく公式を暗記しなければ話にならない。だから――」
「アッシュせんせー」
俺の言葉をさえぎってフレデリカが挙手する。
「数字がずらっと並んでいるのを見ていると気が滅入ってきましたー。保健室につれてってくださーい」
「……真面目にやれ」
まだ始まったばかりでこれとは……。
先が思いやられる。
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