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「アッシュさんは学校の成績どうだったんですかー?」
「自慢するわけじゃないが、常に上位だったぞ」
「自慢ですよそれー」
平日は学校に通い、他の生徒たちと勉強。休日は家庭教師とみっちり勉強。
思い返せば勉強ばかりだったな。
ランフォード家は田舎の町にあったから、上流階級の子供だけが通える学校というものはなく、町の子供たちと一緒に勉強した。
俺には王都から招いた専属の家庭教師がいたから、町の子供たちとは根本的に勉強の質が違った。だから試験で好成績を取れたのも当たり前だった。
ランフォード家で唯一召喚獣を召喚できなかったから、その分学業で認めてもらおうとがんばっていたというのもある。
「じゃあ、アッシュさん。この問題解けますかー?」
フレデリカがカバンから教科書を出してテーブルの上に開く。
数学の教科書だ。
フレデリカは問題の一つを指さす。
「解けるぞ」
嫌味に聞こえそうだったから言わなかったが、こんな初歩の初歩、大したことない。
俺はペンを借りてノートに答えの式を書いてみせた。
ノートをフレデリカのほうに向ける。
フレデリカはあんぐりと口を開けて目をしばたたかせていた。
「どうだ? 合ってるか?」
「私、おバカさんなんで、合ってるかどうかわかんないですー。でもたぶん合ってると思いますよー」
この問題が解けないとなるとフレデリカ、授業についていけてないな……。
「フレデリカ。提案があるんだが」
「提案ですかー?」
「俺に勉強を教わらないか?」
「ふえっ!?」
驚くフレデリカ。
「これから毎日、学校から帰ってきたら俺が勉強を教えるよ」
そう提案するも、彼女は渋い紅茶を飲んだときの顔をしている。
「知ってますー? 私ー、勉強嫌いなんですよー」
「なら、なおさら克服しないとダメだろ」
「あー、あー、聞こえませーん。なんにも聞こえませーん」
両耳をふさがれてしまった……。
俺はフレデリカの手首をつかんでやさしく耳から引きはがす。
「俺がやさしく教えるから」
「そんなこと言って、実は私と二人きりになりたいんでしょー?」
「それはない」
あえて真顔で否定する。
フレデリカがむすっとする。
「……なんか、それはそれで腹が立つんですけどー」
「とにかく、俺といっしょに勉強しよう。勉強がわかれば学校がもっと楽しくなるぞ」
「うーん」
天井を見つめながら悩むフレデリカ。
しばらくそうした後、彼女は俺のほうを向いて言った。
「わかりましたー。アッシュさんを家庭教師に雇いますー」
それから小悪魔っぽい笑みを浮かべてくちびるに指を添える。
「報酬は私のキスでー」
「キスでいいのか?」
「冗談ですよー。ホンキにしましたー?」