60-3
悪魔ベズエルを討伐した異世界から帰還した。
そんな俺たちの目の前に映った光景は思いもよらぬものだった。
「キルステンさん!」
「ナイトホークじゃと!?」
礼拝堂で二人の人間が武器を手にして対峙していた。
一人はキルステンさん。
もう一人は白いローブの男――魔王ロッシュローブの信奉者、ナイトホーク。
割れたガラス、散乱したイスや調度品、そしてぜえぜえとあえぐキルステンさんの頬に引かれた赤い筋が、二人の激しい戦闘を物語っている。
形勢はナイトホークに分があるようだ。
「アッシュ・ランフォード……。戻ってきたか」
顔を目の前の敵に向けたまま、ちらりと俺たちを見やるキルステンさん。
「四魔はどうした」
そう尋ねてきたのはナイトホーク。
やはり四魔を狙いにここに来たのか。
「残念でしたわね。わたくしたちがやっつけちゃいましたわ」
「ほう」
ナイトホークは全く動揺していない。
「我らの崇高なる計画をことごとくじゃましてくれる。実に不愉快な連中だ」
「不愉快なのはあなたのほうです! ナイトホーク!」
プリシラがロッドを振りかぶってナイトホークに躍りかかった。
ナイトホークは手にしている武器――漆黒の剣アイオーンで受け止める。
肉薄する二人。
歯を食いしばるプリシラ。
微動だにしないナイトホーク。
「くだらん」
ナイトホークがプリシラのみぞおちにひざ蹴りをかます。
無防備な腹に強烈な一撃を加えられたプリシラはよろめいて倒れた。
俺は即座に彼女のもとへ駆けつけて抱き起す。
青ざめた、苦しげな顔をしている。
「すみません……。アッシュさま……」
「むちゃをするな、プリシラ」
ナイトホークに攻撃する気配はなく、俺とプリシラを冷たい目で見下ろしている。
「ナイトホークよ。おぬしが手練れでもこの人数相手に勝てるかの? おぬしが奪った魔剣アイオーン、ワシがいただくぞ」
「悪魔ベズエルを手に入れられないとなると、もはやここに用はない」
ナイトホークが手を掲げる。
掲げられた手がぐっと握られた瞬間、閃光がほとばしって視界を白に染めた。
奪われた視界がもとに戻ると、ナイトホークは姿を消していた。
逃げられた。
「くっ」
「キルステンさん!」
ひざをついたキルステンさんのもとにフーガさんが駆け寄る。
キルステンさんは剣を支えにしてどうにか身体を起こしていられる状態だった。
「ナイトホーク……。貴様は必ず私が討つ」
にじむような憎しみを込めた声色でそう言った。
この人がここまで感情をむき出しにするなんて……。