60-2
悪魔ベズエルの身体が変質していく。
指先、つま先、頭頂部から侵食していくように黒い硬質の肌が灰色になっていく。
やがて悪魔ベズエルの姿は灰色の一色に染まった。
スセリが悪魔ベズエルの手に指を触れる。
すると、ベズエルの手は灰か砂のように崩れて散った。
邪悪なる怪物は、完全に魂を失っていた。
「やりましたのね」
ふう、と大きく息をつくマリア。
「あの一瞬でベズエルの弱点を見つけだすなんて、すごいですねアッシュさん」
「アッシュさま、さすがですっ」
「ワシの後継者なだけはあるのじゃ」
仲間たちがそろって俺をほめてくれた。
「それにしても、あっけなかったな」
「あら、アッシュったら。余裕ぶってますわね」
「そうじゃない。魔王ロッシュローブの一部であるはずの四魔が、こんなかんたんに倒せるなんておかしいと思ったんだ」
「その答えならワシが出せるのじゃ」
スセリが灰と化したベズエルから槍を引き抜く。
ベズエルの姿が崩れて灰の山となる。
スセリは手にした槍で、部屋の四隅に置かれていた丸いオブジェを突いた。
「なっ!?」
「ひゃっ!」
銅かなにかでできているであろうそのオブジェは、槍に突かれただけで木っ端みじんに砕け散った。
普通なら槍先が弾かれてしまうであろうにもかかわらず。
「アッシュが金属召喚で呼び出したこの槍は特殊な金属でできておるのじゃ。硬い物質であろうと容易く破壊できる、すさまじい切れ味を持っておるのじゃ」
「だから、ベズエルの目を貫けたのですか」
「そうなのですの? アッシュ」
皆の視線が俺に向けられる。
困った。
俺は単に、頭の中で『ベズエルを倒せるような、とにかく鋭い武器』を思い描いたに過ぎない。それがまさか特別な武器だったなんて。剣を召喚したときは普通の剣だったのに。
どうして金属に限定して呼び出せるのか。
呼び出された金属はもともとどこにあったのか。
どうして俺がその魔法を使えるのか。
金属召喚はわからないことだらけだ。
「アッシュさまは伝説の勇者なのですっ」
プリシラが興奮した声で言う。
「大げさだな」
「いいえ。アッシュさまはきっと選ばれし英雄になるお方なのです。そんなお方のメイドになれたわたしは、とってもとっても光栄なのです」
「だ、そうじゃぞ。アッシュよ」
スセリがひじで小突いてきた。
「古代人でも持て余していた四魔を二体も倒せたのです。アッシュさんが勇者や英雄というのもあながち冗談ではありませんよ」
「帰ったら王に勲章でもせびるがよい」