59-6
マリアの手を取り、橋を渡る。
「きゃあっ」
橋は恐怖をあおるように左右に揺れ、マリアが悲鳴を上げる。
「俺がついているから安心してくれ」
「ぜったいに手を離してはいけませんわよ?」
かっこいいセリフを吐いておきながら、実のところ俺もかなり怖かった。
古びた木の板をつなぎ合わせた粗末な橋。
いつ腐った板を踏み抜いてもおかしくない。
そっと下を覗く。
水路には大量の水がごうごうと唸りを上げて流れている。
落っこちでもしたら、一瞬にして流されてしまうだろう。
「アッシュ。わたくしを導いてくださいまし」
マリアは目を閉じて震えていた。
彼女の手を引いて、慎重に橋を渡っていく。
「あとどのくらいですの?」
「ちょうど半分だな」
「ううう……。まだ半分もありますのね……」
「目を閉じてたら余計怖くないか?」
「いいえ。アッシュの手のぬくもりを感じられて安心しますわ」
照れくさくなった俺は「そ、そうか……」と頬をかいた。
女の子にここまで頼られて喜ばない者などいるだろうか。
「アッシュさーん、マリアさーん。もう少しですよー」
「早く来るのじゃー」
向こう岸でフーガさんとスセリが呼んでいる。
俺とマリアはゆっくりとゆっくりと板の上を歩き、そしてどうにか橋を渡りきった。
対岸の固い足場に辿りついた瞬間、どっと脱力した俺とマリアはその場にへなへなとへたりこんだ。
「がんばりましたね、お二人とも」
「のじゃじゃっ。腰が抜けたみたいじゃの」
俺はすぐさま立ち上がる。
今度はプリシラを迎えにいかなくては。
橋をもう一度渡って、今度はプリシラをエスコートした。
「あわわわわ……。すっごい水の流れです……」
「プリシラ。下を見ちゃだめだ」
プリシラはぷるぷると震えていた。
――と、そのときだった。
プリシラの姿が突如、斜めに傾いたのは。
そしての瞬間と同時に、俺は反射的に彼女の腕をつかんでいた。
「ひゃあああああっ!」
プリシラは腐った板を踏み抜いてしまっていた。
俺がとっさに腕をつかまなかったら、そのまま足を滑らせて橋から落ちていただろう。
「アッシュさまああああっ!」
ぴょんとプリシラが俺の胴体に抱きついてくる。
腕と、脚を使って力強く。
「助けてくださいーっ!」
「お、落ち着けプリシラ。もう平気だ」
錯乱した彼女を落ち着かせるために頭をなでる。
身体を締めつける力が弱まる。
冷静になったプリシラは顔を赤らめて下を向いた。
「も、申し訳ありません! 取り乱してしまって……」
「危ないところだったな」
「助けていただいてありがとうございます」