59-1
休憩を終えて再出発した俺たちは熱砂の大地をあえぎながら歩き、どうにか泉に辿り着けた。
「遅かったのう!」
案の定、スセリが泉で沐浴をしていた。
全裸だが、俺とフーガさんがいても恥じらいのかけらも見せない。
慌てて顔をそらすフーガさん。
俺も一応、視界に入れないように顔を横に向けた。
「スセリさま、ご無事でよかったです」
「心配して損しましたわ」
「プリシラもマリアも早く服を脱ぐのじゃ」
「きゃっ」
「わっ、冷たいですっ」
手ですくった水を俺たちに浴びせかけるスセリ。
水しぶきが肌に当たると、ひんやり冷たくて気持ちよかった。
確かにここで水浴びをしたら気持ちいいだろうな。
「僕とアッシュさんは後ろを向いていますから、どうぞお二人も水浴びをしてください」
「俺たちは見張りをしてるから」
「では、お言葉に甘えて」
彼女たちに背を向ける俺とフーガさん。
衣擦れの音が聞こえてくる。
プリシラとマリアが服を脱いでいるのだ。
「ちょっとドキドキしますね」
苦笑いするフーガさん。
「僕もあんなかわいい恋人が欲しいです」
「恋人じゃないんですけど……」
やがて彼女のたちのはしゃぎ声が聞こえてきた。
ぴちゃぴちゃと水の跳ねる音。
プリシラとスセリとマリアが楽しそうに水をかけあって遊んでいる。
「フーガさんにはそういう人はいないんですか?」
「残念ながら。生まれてこの方、女性に好意を寄せられた経験はありません」
フーガさんが「あはは」と頬をかく。
意外だな。
フーガさんは真面目で温厚で誠実そうな人柄なのに。
見た目も知的な雰囲気で好印象なのだが。
恋愛に関しては奥手なのだろうか。
「アッシュさんに教えてもらいたいです。女性に好かれるにはどうしたらいいか」
「いえ、俺もえらそうなこと言える立場じゃないんで。あえて言うなら、うーん……。積極性、ですかね」
適当に答えてしまったが、積極性に関しては俺もあまりない。
ではどうしてプリシラやマリアに好かれているかというと……。
わからない。
彼女たちは俺のどういうところを好いてくれているのだろう。
「積極性。そうですね。待つのではなく、自分から挑戦しないといけませんね」
フーガさんはぐっとこぶしを握る。
「気になる女性はいるんですか?」
「これからさがしますよ」
と笑顔で言った。
「アッシュ。フーガ。こっちを向いてもよいのじゃ」
スセリがそう言ってきたので、俺たちは後ろを振り返る。
しかし、それはあまりにも不用意でうかつだった。
視界に飛び込んできたのは――三人の少女の裸。
目をまんまるにして硬直するプリシラとマリア。
はめられた……。
さーっと血の気が引いていく。
腰に手を当てて堂々と立っているスセリ。
プリシラが両手で胸を隠す。
マリアがわなわなとこぶしを振るわせる。
「アッシュ!」
マリアが飛ばした魔法の弾丸が俺の耳元をかすめ、そばにあった木に直撃した。
へし折れる木。
慌てて後ろを向く俺とフーガさん。
「のーじゃじゃじゃじゃっ」
スセリの大笑いが聞こえてきた。