58-5
「おかえりなさいませ、アッシュさま。スセリさま」
パーティーが終わって家に帰るとプリシラが出迎えてくれた。
窓から見える空は黒。無数の小さな星がちりばめられている。
普段ならとっくに寝る時刻なのだが、がんばって起きていてくれたのだろう。
「パーティーは楽しかったですか?」
「なかなか楽しめたのじゃ。まあ、面倒なヤツに絡まれたがの」
「留守番させてすまないな、プリシラ」
「いえいえ。これもメイドの務めですので――ふわぁ」
プリシラが大きく口を開けてあくびをする。
慌てて口をふさぐプリシラ。
「すっ、すみませんっ」
「もう寝る時間だもんな。待っててくれてありがとう」
プリシラの頭をなでる。
彼女は「てへへ」と気持ちよさそうに目を細めた。
「それではおやすみなさいませ。アッシュさま、スセリさま」
「おやすみ」
「なのじゃ」
俺たちは就寝のあいさつを交わしてそれぞれの部屋に入った。
自室に入った俺は、ベッドに入る前に机に向かった。
便箋を広げ、ペンの先をインクつぼにつける。
さて、なにを書こうか。
俺が書こうとしているのはセヴリーヌへの手紙。
数日前、ようやく彼女からの手紙が届いたのだ。
その返事を今、考えている。
考えあぐね、セヴリーヌの手紙を読み返す。
手紙の内容は、その日食べたヴットリオさんのお弁当についてだった。
すごくおいしかったという、極めて短く、かつ単純な文だった。
……ついでに言うと、めちゃくちゃ字が汚かった。
がんばって書いたのは伝わってきたが。
――うらやましいな。俺もヴィットリオさんの料理が恋しいよ。
とりあえずそう書いた。
料理の話題からつなげて、王都の料理やカフェのケーキについても書いた。
こんなところだろう。
俺は便箋を封筒に入れた。
明日、郵便局に行って手紙を出そう。
そのとき、端末がやかましくベルを鳴らしだし、夜の静寂を破った。
慌てて通話に出てベルを止める。
画面にセヴリーヌの顔が現れた。
「アッシュ、手紙まだか?」
「今、書いたところだ」
「今だって!? 遅すぎるぞ!」
ぷんすか憤るセヴリーヌ。
「セヴリーヌ、また夜更かししてるのか。ちゃんと規則正しい生活をしないと身体を壊すぞ」
「それ、クラリッサも言ってたけど、アタシは昼に寝て夜に起きる規則正しい生活をしてるから問題ないぞ」
問題大ありだ……。
「寝ているみんなを起こしてしまう前に切るぞ」
「えっ、もう切るのか……?」
セヴリーヌはしょぼんとうなだれる。
「規則正しい生活を心がけて、昼間にしゃべろうな」
「うぐ……。わかった」
「おやすみ、セヴリーヌ」
「待て! アタシが寝るまで通話を切らないでくれ。いいだろ……?」
「わかったよ」
俺は端末を枕元に置いてベッドに横たわった。
画面越しにセヴリーヌが俺を見つめてくる。
いじらしいな。
俺が笑うと、画面越しの彼女もにっこりと笑った。
彼女のつぶらな瞳が半分まぶたに覆われ、やがて完全に閉じると、俺は「おやすみ」とささやいて通話を切った。