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「ギルド長の代理でお二人が来ると知ったときわたくし、特別なめぐりあわせを感じずにはいられませんでした」
ラピス王女のきらきらと輝くまなざしがスセリに注がれる。
スセリはロコツにうんざりとした顔。
「不老の秘法、ぜひともわたくしに教えてくださいまし」
「そんなものはないのじゃ。あきらめるのじゃ」
邪険にあしらわれてもラピス王女はめげず、それからずっとスセリにつきまとってきた。
スセリは心底不味そうに料理を食べている。
「わたくしのお父さまはこの国の王。わたくしの願いを叶えてくだされば、お父さまもスセリさまの願いを叶えてくださるでしょう」
「ワシはおぬしの父に詐欺師呼ばわりされてるのじゃがな」
王の名を出した取引にもスセリは応じなかった。
――と、そのとき。
「ラピス。ここにいたのか」
俺たちの前に現れた、威厳ある立派ないでたちの男性。
国王陛下だった。
「こっ、国王陛下! ごきげんうるわしゅう……」
俺が慌ててお辞儀をすると、国王陛下は「よせ」と笑いながら手を振った。
「堅苦しいあいさつは結構。パーティーを楽しむがよい」
「おい、おぬしの娘がワシに無理難題を言ってきておるのじゃが」
「むむ。やはりか……」
眉をひそめる国王陛下。
七番目の娘が不老の力に興味があるのを知っていたらしい。そしてそれに日ごろから頭を悩ませているのだろう。国王陛下はスセリに文句を言われると困ったようすでため息をついた。
「ラピス。お前はまだ若い。老いたときのことを今から考えても詮無いだけだろう」
「ですが、お父さま。わたくし、ずっと若いままでいたいのです」
「不老の魔法など、この小娘の口から出まかせだ。おおかた、この小娘は『稀代の魔術師』スセリの孫かひ孫だろう。そうだな? 詐欺師の小娘よ」
「あー、もうそれでよいのじゃ。何回『小娘』と言っておるのじゃ」
投げやりな態度でスセリは言った。
不満げにほっぺたをふくらませるラピス王女。
「このパーティーはお前の婚約者をさがす目的もあるのだ。ゆくぞ」
「……スセリさま。わたくし、諦めませんからね」
国王陛下は娘の肩に手をやって、二人そろって俺たちの前からいなくなった。
王族でも、手に入らないものはある。
手に入らないからこそ欲しくなるのだろうか。
「スセリ。自分が不老なのは隠しておいたほうがいいんじゃないか?」
「隠していたら威厳がのう……。『稀代の魔術師』と名乗っても誰も信じんからの」
自分が偉大な魔術師であるのを隠す考えはないらしい。
そんな謙虚な人間なら、不老になろうだなんて考えないか。