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「こうなったら、意地でも6を出してみせますわ!」
「わ、わたしもきれいなドレスを着てアッシュさまのお隣に並びますっ」
マリアがダイスを振り、続けてプリシラもダイスを振った。
……そんな出来事があったのは3日前。
今、俺は王侯貴族たちの談笑でにぎわう王城の広間にいる。
隣にいるのは――。
「肉もよいが、この魚料理も絶品なのじゃ」
白いドレスを着たスセリだった。
彼女は王城でふるまわれる最上級の料理にありつけてごきげんだった。
「アッシュ。おぬしももっと食べんか」
「食べてるよ」
「ふむ、ならダンスをするのじゃ」
「俺、ダンスなんて知らないぞ」
「心配いらん。ワシに身体をゆだねればよい」
俺とスセリは広間の中心に行き、他の人たちに混じってダンスに興じた。
二人で手をつないで、演奏される上品な曲に合わせて踊る。
スセリにリードされてぎこちなく踊るのが少しくやしく、少し恥ずかしく、少し楽しく、少し胸がどきどきした。
「かわいい奴め」
スセリがいじわるな笑みが、どうしてか魅力的に感じてしまった。
結局、わからなかった。
あのときスセリがダイスで6を出したのは、イカサマだったのか否か。
「なあ、スセリ」
「うむ?」
「お前、イカサマしただろ」
「白状したら、おぬしはワシをここから叩き出すのか?」
「しないけど……」
「ならばこだわる必要はあるまい」
このダンスと同じだな。
主導権はいつも彼女にある。
俺はきっと、どうあがいてもこの子にはかなわないのだろう。
美しい銀色の髪をもつ少女。
無限の命を持つ『稀代の魔術師』。
翻弄されっぱなしだ。彼女の封印を解いたあのときから、ずっと。
ダンスが終わった後は他の王族や貴族たちと交流した。
「あのランフォード家のご令息でしたか!」
誰もがランフォードの名を聞くと驚いた。
俺自身も内心驚いていた。
自分が高名な召喚術師の家柄だとはわかっていたものの、他の貴族から尊敬のまなざしを向けられると、ランフォードという名の力の大きさを否応にも実感してしまったのだ。
「そちら方は婚約者ですか?」
そして皆、俺の隣に並ぶスセリを見て尋ねてくる。
「妹なのじゃ」
そのたびにスセリは苦笑いして答えたのだった。
彼女にしては珍しい、なにかを諦めたような苦笑いで、俺はどうしてか罪悪感をおぼえた。
「スセリさま。アッシュさん」
背後から誰かが声をかけてきた。
振り返ると、そこにはとても美しい、赤いドレスを着た少女がにこりと微笑んでいた。
「ラピス王女さま」
「ごあいさつが遅れてすみません。パーティーは楽しんでいますか?」
「ええ、とても。本日はお招きいただき光栄の至りでございます」
「キルステンの代理じゃがな」