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というわけで、パーティーに出席するのは俺とプリシラ――にはならなかった。
「さて、どうやってアッシュのパートナーを決めましょう」
「え? マリア、プリシラに譲るんじゃないのか?」
「そんなこと一言も言ってませんわよ」
マリアもスセリも譲る気はなく、なんとしてもパーティーに出るつもりらしい。
好戦的な笑みを浮かべているマリアとスセリ。
それに負けじとプリシラも「アッシュさまは渡しませんっ」と気合が入っている。
「アッシュ。わたくしを選びますわよね?」
詰め寄ってくるマリア。
背筋を伸ばし、視線を合わせてにらみつけてくる。
その目は俺に首を横に振るのを許していなかった。
「むろん、ワシを選ぶのじゃな? うむ、決まりじゃな」
「アッシュさまはまだなにを言ってませんよ!?」
「さわがしい連中だ」
キルステンさんが呆れたようすでイスに座る。
「痴話げんかなら外でやれ」
いったんロビーに出て、それから彼女たちの戦いは再開した。
「あの、誰をパートナーにするかはアッシュさまに決めてもらってはどうでしょう」
「それはダメですわ」
プリシラの提案をマリアが拒否する。
「だって、そうしたらアッシュ、間違いなくプリシラを選びますもの……」
マリアは切なげな表情でそう言った。
確かに、このままらちが明かなかったら俺はプリシラを選ぶつもりだった。
「プリシラはいじらしくてかわいいからのう」
「て、てへへ……」
照れくさそうにはにかむプリシラ。
「じゃあ、出席するのは俺とプリシラでいいな?」
「よくありませんわっ!」
「よくないのじゃ」
マリアとスセリが同時に言った。
なぜだ……。
「ここは公平に決めるのじゃ。『コレ』での」
スセリがスカートのポケットから出したのは、手のひらに収まる小さな立方体だった。
立方体の各面にはそれぞれ1から6までの数字が刻印されている。
ありふれたダイスだ。
どうやらダイスを振って一番大きい目を出した者を俺のパートナーにするつもりらしい。
以前、俺をめぐってセヴリーヌの家でボードゲームをした思い出がよみがえる。
「ワシから振るのじゃ」
「お待ちになって、スセリさま」
「なんじゃ」
「『1が出たから1番』というのはナシですわよ」
「わかっておるのじゃ。最も大きな数字を出した者が勝者なのじゃ――ていっ」
スセリがテーブルにダイスを投げる。
出た目は――まさかの、いや、あたりまえの6。
ほくそ笑むスセリ。
「早くも決着がついたのじゃ」
「スセリさま、魔法でインチキしましたわね!」
「ほう、ならば当然、魔力を感じたのじゃな? どうじゃ?」
「そ、それは……」
くやしげに口ごもるマリア。
俺もスセリがズルをしないか気をつけていたが、魔力は感じなかった。